常設化決定! 熊本地震から学ぶ被災時の税制措置まとめ | MONEYIZM
 

常設化決定!
熊本地震から学ぶ被災時の税制措置まとめ

熊本地震による被害からの復旧や今後の災害対応の観点から、これまでの災害減免法等の規定に加え、災害に対応するための税制上の規定が平成29年度税制改正により常設化されます。現在事業の一部において災害等の被害に遭われた方はもちろんのこと、いつ都市直下型地震が起きるかわからない現代において、被災時の対応を予め把握しておくことは大切なことです。今回は新たに常設化が決定した税制措置の中でも法人税関連の措置に焦点を当てて解説していきます。

常設化した被災時の税制措置一覧

本項では、常設化されている災害関連の税制措置についての一覧と、それぞれの措置の概要を説明します。

全ての災害に適用される制度

住宅ローン減税の適用の特例

住宅ローンを利用している場合、所得税額の特別控除が適用されることがあります。この控除を住宅借入金等特別控除といいます。この適用を受ける住宅が災害によって住むことができなくなったとしても、本特例により、災害にあった年以後の適用年について引き続き税額控除を受けることができます。

財形住宅・年金貯蓄の非課税措置の特例

住宅が災害によって一定以上の損害を受けたことや、一定額以上の医療費を支払うことなどを理由に財形住宅(年金)貯蓄の払い出しを行う場合に適用される特例です。本来であれば要件を満たさない払い出しにおいては、払い出しの日から遡って利子等に税金がかかります。しかし、上記の特別な場合においてはこの遡及課税が行われなくなります。

災害損失の繰り戻しによる法人税額の還付

後の項で詳しく説明します。

仮決算の中間申告による所得税額の還付

後の項で詳しく説明します。

住宅取得等資金の贈与税の特例措置に係る住居要件の免許等

贈与税には「住宅取得等資金の非課税制度」という非課税制度があります。直系尊属である両親や祖父母などからの贈与を一定の金額まで非課税とする制度です。災害関連では、住宅取得等資金の贈与を受けて建てた家屋が、災害によって滅失等をした場合において特例が適用されます。この場合、贈与税の非課税措置を受けるための要件である居住要件の免除、および住居期限の延長等の措置を受けることができます。

山林に係る相続税の納税猶予等の規模拡大要件の緩和

「山林に係る相続税の納税猶予」とは、規模拡大を目的とした山林経営を行ってきた被相続人の所有する山林に対して、納税の猶予を認める制度です。本納税猶予制度について、災害によって森林被害のため経営の規模拡大を行うことが困難となった場合には、経営規模拡大の期限が従来の10年から15年に延長されます。

法人税・消費税の中間申告書の提出不要

法人税・地方法人税・消費税の中間申告書の提出について、申告期限の延長によってその提出期限と確定申告書の提出期限とが同一の日となる場合には、中間申告書の提出が不要となります。

被災酒類に係る酒税相当額の還付方法の簡素化

災害によって販売のため所持していた酒類が破損等した場合には、酒税相当額の支払を受けることができますが、その方法が簡素化されます。

災害を指定して適用される制度

被災者の生活再建に資する措置

この措置は、被災者生活再建支援法の対象となる災害に適用されます。近年では、平成28年の熊本地震をはじめとし、台風や大雨、強風による災害事例が対象となりました。
・住宅の再取得等に係る住宅ローン減税の特例
・被災した建物の建て替え等に係る登録免許税の免税
・被災者が取得した住宅取得等資金に係る贈与税の特例
・建築工事の請負に関する契約書等の印紙税の非課税
・被災自動車に係る自動車重量税の特例還付

事業者の再検討に資する措置

こちらは、特定非常災害特別措置法の対象となる災害に適用されます。過去には阪神・淡路大震災や新潟県中越地震などが対象となりました。
・買換え特例に係る買換え資産の取得期間等の延長
・被災代替資産等の特別償却
・特定地域内の土地等の評価に係る相続税・贈与税の基準時の特例等
・消費税の課税事業者選択届出書の提出等に係る特例

他法令の仕組みを前提としている措置

下記措置は、それぞれ他の法令を前提としています。
・被災市街地復興土地区画整理事業等に係る土地等の譲渡所得の課税の特例(被災市街地復興特別措置法)
・事業承継税制(相続税・贈与税)における事業継続要件等の緩和(一部の要件について中小企業信用保険法が前提。その他の要件について、すべての災害に適用。)
・公的貸付機関等・金融機関が行う特別貸付に係る消費貸借に関する契約書の印紙税の非課税(激甚災害法)

法人税に関連した制度を徹底解説

災害損失の繰戻しによる法人税額及び地方法人税額の還付

この制度は、災害によって損失が生じた際に、前1年または2年分の法人税についてある程度の還付を請求することができるというものです。

以下が基本の情報です。

対象の損害

災害のあった日から同日以後1年を経過する日までの間に終了する各事業年度又は災害のあった日から同日以後6か月を経過する日までの間に終了する中間期間(災害欠損事業年度)に生じた災害損失欠損金額。

措置

災害欠損事業年度開始の日前1年(青色申告書である場合は前2年)以内に開始した事業年度(還付所得事業年度)の法人税のうち、災害欠損金額に対応する部分の金額について還付を請求することができます。また、本制度によって法人税の還付が行われる場合には、法人税還付額の4.4%分を地方法人税の還付金として受け取ることができます。

法人税の還付額の計算

法人税の還付額は次の算式により計算します。

本制度の適用に必要な要件

・還付所得事業年度から災害欠損事業年度の前事業年度まで連続して確定申告書(期限後申告書を含む。以下同様)を提出している必要があります。
・所要の事項を記載した還付請求書を災害欠損事業年度の確定申告書、または仮決算による中間申告書の提出と同時に納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。

適用時期

平成29年4月1日から施行されるため、平成29年4月1日以後に確定申告書等の提出を行う法人から適用を受けることができます。なお、平成29年3月31日以前1年の事業年度分の法人税の確定申告書を同年3月31日までに提出した法人については、同年5月1日までに還付請求書の提出を行うことにより、この制度の適用を受けることができます。

仮決算の中間申告による所得税額の還付

制度の概要

災害のあった日から同日以後6か月までの間に終了する中間期間において生じた災害損失金額があった場合、その中間期間において課される所得税額のうち、法人税額から控除しきれなかった金額が還付されます。

適用時期

平成29年4月1日から施行されるため、平成29年4月1日以後に仮決算による中間申告書の提出を行う法人から適用を受けることができます。

その他

他にも以下のような改正がなされました。
・特定非常災害発生日から同日の翌日以後5年を経過する日までの期間内に、被災代替資産等の取得等をして事業を行った場合には、特別償却をすることができるようになりました。
・収用等又は特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例について、特定非常災害に基因する事情により指定期間内に代替資産の取得が困難になった場合には、一定の要件の下にその期間を2年以内で延長することができるようになりました。

☆ヒント
近年、地震を始めとした災害対応の重要性について、ますます注目度が高まってきています。そのような中で、災害に遭ったときにどのような税制処遇を受けることができるのか、きちんと把握する必要があります。
税理士は記帳代行業務から、資金繰り改善といった経営コンサルに近い領域まで様々なサービスを請け負っています。そのような多種多様なサービスがある中で、最新の税制に詳しい税理士を選ぶことがとても重要であると考えられます。

まとめ

以上のように、災害に関する事項の税制改正が行われました。災害は起きないことが一番良いですが、それを願って対策をしないというわけにもいきません。本記事をきっかけに、災害に対する法人税の知識を深めるにとどまらず、災害の被害を最小限に抑えられるよう対策するように検討してみてはいかがでしょうか。

清水瑛介
東京大学卒。現、同大学院所属。
不動産投資に長らく関わっており、不動産に関する税制や相続が得意分野。
税理士事務所でアルバイトとして従事。
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