昇給率1.6%?
中小企業が昇給すると得られるメリットについて
昇給率1.6%?  中小企業が昇給すると得られるメリットについて

2017/5/17

 
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ここ何年かの不況の波から未だ逃れられていない日本企業ですが、今回は給与の上がった割合である「昇給率」についてまとめていきます。昇給は従業員にとっては嬉しいことですが、企業としては一度賃金を上げると一方的に減額できないため、消極的になりがちです。特に景気に左右されやすい中小企業の昇給率はどうなっているのでしょうか、昇給をすることで得られる企業側のメリットについてもあわせて解説していきます。

中小企業の昇給率が1.6%

中小企業庁の「2016年版中小企業白書」によると、大企業・中小企業ともに賃金はここ15年間で上昇傾向にありますが、大企業の昇給率2.2%に対して中小企業の昇給率は1.6%にとどまっています。これは例えば給与が20万円であれば、大企業は4,400円、中小企業は3,200円の昇給ということになります。一見小さな差かもしれませんが、給与が30万、50万と変われば大きな差になりますし、昇給が続けば小さな差が積もり積もって大きな額の違いになりえます。

これだけの差が開いてしまっている要因として、中小企業は景気に大きく左右される存在であるということが挙げられます。景気が悪化すれば業績もそれに引きずられて悪くなり、昇給率は下がります。また、一時的に業績がよくなり昇給したとしたら、その後たとえ業績が悪化しても、勝手に減給することはできません。つまり、企業側からしてみると給与を上げることはリスクがあるといえるでしょう。

昇給した企業

実際に昇給した企業(30歳を境としてそれまでに給与が大きく上がる企業)をみてみると、50位以内のほとんどの企業が大企業という結果だそうです。

もちろん、中小企業の中でも昇給する企業はあります。中小企業庁の調査によると、中小企業の給与額は毎年じわじわと上がってきており、2014年時点で平均29.7万円となっています(大企業は38.0万円)。賃上げの推移も年によってばらつきはあるものの、平均して上昇傾向にはあるようです。それを示しているのが、実際に給与を「引き上げる・引き上げた」とする企業の割合で、平成27年度では61.4%であるのに対し、平成28年度は63.9%となっています。

一方で、中小企業の中で昇給のあり・なしを比較すると、101名以上の企業で76%、31~100名以下の企業で65%、11~30名以下の企業で53%、6~10名以下の企業で57%、5名以下の企業で49%となっており、従業員数が少ないほど昇給しにくい状況にあるようです。結果として、中小企業全体での昇給する企業は6割程度にとどまっており、やはり中小企業の昇給実態は厳しいことが伺えます。

反対に、6割近くの企業はどのような理由で昇給しているのでしょうか。中小企業庁の調査(複数回答可)によると、

 人材の採用・従業員の引き止め:47.6%
 業績の回復・向上:32.6%
 他社の賃金動向:16.0%
 制度のルールにしたがって決定:13.3%
 最低賃金引き上げのため:11.6%

となっており、やはり人材が中小企業の昇給に大きく関係していることがわかります。

☆ヒント
大企業に比べ中小企業のほうが昇給率は低くなっているものの、全中小企業のうち約6割の企業で昇給が行われています。中小企業で昇給が行われる理由としては、人材不足を補うためというのが挙げられます。

昇給しなかった企業

平成28年度に給与を引き上げていないとした割合は33.0%にものぼりましたが、「引き上げていない」と回答した企業の理由は、
 ●業績回復・向上が不十分:88.3%
 ●賃金より従業員の雇用維持を優先:25.6%
 ●他社製品・サービスとの競争強化:13.6%
 ●原油・原材料価格の高騰:12.7%
 ●取引先企業からの値下げ要求:9.5%
 ●人材不足による事業活動の停滞:8.5%
 ●直近に賃金の引き上げを行ったため8.4%
 ●設備投資の増強:8.2%
 ●制度のルールにしたがって決定:4.6%
 ●他社の賃金動向:4.0%
 ●製品・技術開発、新規事業展開:1.9%
となっており、業績の低迷により昇給を行わない企業が大半を占めることがわかります。また、リーマンショック後の大企業のように、昇給よりも従業員の雇用維持を優先する動きもあるようです。

昇給することで得られる税制優遇措置とは?

ここまでは中小企業の昇給率が低いという話でしたが、実は従業員の給与をアップすることで、企業側にも節税対策としてのメリットがあります。以下では、昇給することで企業が得られる税制上の優遇措置、「所得拡大促進税制」について解説していきます。

①要件

要件としては以下の4つを満たす必要があります。
(ア) 基準事業年度より、平成27年3月31以前に開始する事業年度については2%以上、平成27年4月1日~平成30年3月31日までに開始する事業年度については3%以上、給与等支給額が上がっていること
※ 基準年度とは、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の直前の事業年度のことをいいます。
※ 平成28年度4月1日以降は4%、平成29年では5%となるところを、中小企業者に対する特例で3%に緩和されています。
(イ) 国内雇用者に対する給与等の支給額が前年度以上であること
(ウ) 継続雇用者1人あたりの平均給与等支給額が前年度を上回っていること
(エ) 青色申告法人であること

※(ウ)の平均給与支給額について、継続雇用者は適用年度・前年度にどちらも給与の支給を受けた雇用者のことを指します。
※(ア)(イ)(ウ)の給与等支給額とは、従業員の給与の総額から「役員報酬」「役員の親族などやその関係者に対する給与」「退職手当」などを差し引いた総額のことを指します。
※その他、「事業年度によって月数が異なる場合」「基準事業年度に給与等の支給がない場合」「新規設立により基準事業年度がない場合」など、特殊な場合の際の考え方は経済産業省の『所得拡大促進税制のご利用の手引き』に詳しく記載されていますので、そちらをご確認ください。

ちなみに、平成28年度から「雇用促進税制」との併用が可能になりました。ただし、適用範囲や雇用形態の見直しが行われ、従来のものよりも厳しい要件となったため、注意が必要です。法人税控除額の調整計算が必要になるので、詳しい計算方法はこちらをご覧ください。

②手続き

事前申告などは必要ありません。給与等を計算して要件を満たしているか確認した後、確定申告時に専用の明細書を添付します。

③節税効果

給与増加額の10%分の税額控除が受けられます。ただし控除できる金額には上限があり、中小企業者の場合、事業年度の法人税額の20%相当額です。
具体的なケースで見ていくと、

  給与等総額 増加率 要件への該当 控除額
平成25年度
(基準年度)
3,000万円
平成26年度 3,030万円 1% × 0円
平成27年度 3,090万円 3% 9万円(90万円の10%)
平成28年度 3,150万円 5% 15万円(150万円の10%)

といったように、給与の増加率が大きければ大きいほど節税できる金額も上がっていくということになります。

☆ヒント
中小企業で昇給が消極的な理由としては、業績の低迷や従業員の雇用維持が挙げられました。
業績向上に伴って昇給を行っている企業もいるようですが、人材の採用・従業員引き止めを理由に昇給を行っている企業が多いようです。つまり、人材の流出を防ぐ目的として昇給をしている企業が多いということが分かりました。

給与水準が高くなれば、それだけ優秀な人材を雇用しやすくなります。人を雇うための攻めの投資として、所得拡大促進税制を紹介しました。これは、雇用者への給与等の支給額を一定割合以上増加させる等の要件を満たした場合、その増加額の10%を法人税額から控除できる制度です。
もしかすると、昇給に消極的になり人材流出が起こってしまうよりは、積極的に昇給を行い、従業員のモチベーションを高めて採用力を強化したほうが、中長的な目線で見たとき良い結果に繋がるかもしれません。

税理士は資金繰りのプロであるので、このような税制などに詳しく、適切なアドバイスを行うことが可能です。昇給に限らず、会社の資金繰りに課題があるようでしたら、信頼のできる税理士に相談するとよいでしょう。

まとめ

大企業に比べ昇給率の低い中小企業ですが、昇給をすることで企業側にもメリットがあることをおわかりいただけたでしょうか。資金繰りとの兼ね合いを考えながら税理士と相談し、検討すると良いでしょう。

岡田桃子
東京大学卒。
卒業後は中央官庁に勤め、退官後ベンチャー企業に転職し、経理・法務などに携わる。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。
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