最高裁が決断!養子縁組による節税は「有効」 | MONEYIZM
 

最高裁が決断!養子縁組による節税は「有効」

相続税の節税目的で行われた養子縁組の是非を問う裁判が行われ、2017年1月31日に最高裁が「有効」と判決を下しました。しかし、どのような場合でも節税目的の養子縁組が有効になるわけではないので、注意が必要です。
以下で今回の事例の詳しい内容、判決のポイントについて詳しく解説していきます。

最高裁が判決を下す 養子縁組による節税対策

本件の内容

今回議論の対象となったのは、2013年に死亡した男性(当時82歳)が、前年の2012年に長男の息子(孫)と養子縁組を結んだという事案です。
そもそも相続税には、相続する人数に応じた基礎控除額(相続税のかからない範囲)があり、相続人が増えると相続税が安くなります。今回の養子縁組は、もとより相続税を節税する目的で結ばれたものでした。
しかしこれを問題としたのは、死亡した男性の娘たちです。男性には長男以外にも、長女・次女がおり、当然養子縁組を結んだことで長女・次女に対する相続額は1/3から1/4に減少してしまいます。これにより、娘2人が「養子縁組は父の意志によるものではなかった」という主張の下、養子縁組の無効を求めて孫側を提訴しました。

判決内容

最高裁は1月31日、本件に対して「節税目的の養子縁組でも直ちに無効とはいえない」との初判断を下しました。

2015年の税制改正で相続税の基礎控除が縮小されたことを機に、富裕層以外にも相続税対策の意識は高まってきています。その中で、相続税対策の養子縁組はよく知られたものでしたが、縁組が認められない可能性も示唆されてきました。しかし今回、相続税対策の養子縁組を初めて認める最高裁判所の判決が下ったことにより、相続税対策の養子縁組が拡大する現状が容認される形となりました。

今回の事例のポイント

相続税の基礎控除額

相続税における基礎控除額は以下の式で計算されます。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人数

つまり、養子縁組により法定相続人数が1人増えると、相続税総額として600万円の節税効果があるという仕組みです。

しかし、養子縁組を何人でも結んで良いというわけではありません。民法上養子縁組の人数に制限はありませんが、相続税の計算上は、

・被相続人に実の子供がいる場合
基礎控除の計算に含めることができる養子は1人まで
・被相続人に実の子供がいない場合
基礎控除の計算に含めることができる養子は2人まで

という制限があるので注意が必要です。

各裁判所、判決の争点

一審・東京家裁の判決

一審の東京家庭裁判所は、「男性には養子縁組をする意志があったと推定される」とし、養子縁組の有効性を認めていました。

二審・東京高裁の判決

二審の東京高等裁判所は、税理士などから相続税対策として説明されて結ばれた点を問題視し、「真の親子関係を結ぶ意志がなかった」とし、養子縁組を無効と判断していました。孫側の上告により、最高裁の判断に委ねられることになりました。

最高裁の判決

最高裁では、相続税の動機と養子縁組の意志は共存するとし、「相続税対策目的であっても、養子縁組する意志がなかったとはいえない」として、節税目的の養子縁組が有効という最終判断が下されました。

養子縁組をする目的

今回の最高裁が養子縁組を有効とする判断を下した背景に、養子縁組を結ぶ目的には相続税対策以外にも以下ものが挙げられます。

生命保険金・死亡退職金の非課税枠

相続税の基礎控除額と同様、法定相続人の人数に応じて、これらの非課税限度額も増額されます。

財産分与の目的

自分の世話をしてくれた一家に多く財産を残すなどの目的で、養子縁組が結ばれることがあります。

事業承継の目的

事業の後継ぎとして迎えるため、後継者を養子とすることがあります。

結果として、養子縁組において、相続税対策は複数あるうちの1つの効果と捉えられているケースも多く、それが最高裁の判断のベースになっていると考えられます。

注意点すべき、相続税法63条

今回の一連の裁判で、相続税目的の養子縁組が有効と判断されましたが、すべての場合において有効であるとは限りません。というのも、相続税法の63条に、「養子縁組が相続税を不当に減少させる場合はこれを否認できる」と明記されているためです。
ここでいう不当に減少させる場合とは、今回の裁判で争点になったように、「当人に養子縁組を結ぶ意志がない場合」が該当します。例えば、父が認知症で子供がその養子縁組を誘導した場合などは、当人に結ぶ意志がないとされ、不当な養子縁組と判断されます。

しかし今回のケースのように養子縁組を結んでから相続人の死亡までの時間が短いといったような場合は、不当性の証明は困難です。当人に養子縁組の意志が明確にあると認められる場合には、今回の判例のように、今後も節税目的の養子縁組が有効とされるでしょう。ただ、今回の事例のように複数の子供がいる場合は、事前に話し合って合意を得てから進めるのが無難といえます。

☆ヒント
今回の一連の裁判の結果は、積極的に相続税の節税を利用する根拠となります。節税対策としての養子縁組を利用する場合は、早めに準備することが必要です。
不安や疑問点がある場合は、私たちの税理士紹介サービスをご利用されてみてはいかがでしょうか。節税対策や相続税に詳しい税理士と相談して、今後の方針を考えましょう。

まとめ

養子縁組は節税対策など様々な目的で利用されますが、今回のケースのように家族間のトラブルになりやすいことは知っておく必要があります。ただ、明確に意思がある場合の養子縁組は今回有効と認められた形なので、注意しつつ利用していきましょう。

細井山豊
東京大学卒。現、同大学院所属。
ベンチャー企業の経営やビジネスを学んでおり、経営に役立つ様々な知識やノウハウを習得中。
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