海外在住の個人事業主は確定申告が必要? 非居住者と税金の関係とは | MONEYIZM
 

海外在住の個人事業主は確定申告が必要?
非居住者と税金の関係とは

社会情勢の変化やインターネットの普及などにより、海外に住みながら日本から仕事を受注している人も増えています。では、海外在住の個人事業主の税金はどうなるのでしょうか。日本の確定申告をする必要はあるのでしょうか。ここでは、海外在住の個人事業主と日本の税金の関係について解説します。

所得税の基本的な原則と納税義務者

海外在住の個人事業主と日本の税金の関係を知るためには、まずは、所得税がどのようなものかを知る必要があります。そこで、ここでは所得税の概要や基礎的な考え方を見ていきましょう。

所得税の3つの基本的な原則

所得税は、個人が1月1日から12月31日までの1年間に得た所得に対して課される税金です。

所得には、サラリーマンの給与所得や個人事業主の事業所得などさまざまな種類がありますが、これらを暦年ごとに集計し、そこに、原則、所得が高ければ高いほど税率が高くなる累進税率を乗ずることで、その人の担税力に応じた所得税が計算できるしくみとなっています。所得税の計算にあたっては、次の3つの基本的な原則があります。

①個人単位課税の原則

個人単位課税の原則とは、「所得税は個人一人ひとりに対して課される税金である」という原則です。夫婦や家族など一緒に生活している場合であっても、収入を得た個人を一単位として所得税の計算を行います。

②暦年単位課税の原則

暦年単位課税の原則とは、1月1日から12月31日までの個人の一暦年に発生した所得を基に所得税の計算を行う原則のことです。これに対し、法人は任意の決算日を設けて、その会計期間を基に法人税の計算を行うため、個人と法人では計算期間に違いがあります。

③応能負担の原則

応能負担の原則とは、収入の内容や金額を考慮して税金の計算形態を決めていく原則のことです。例えば、個人事業をして得た収入と所有しているマイホームを売却して得た収入に同じ計算により所得税を課すと、不平等が生じる可能性があります。そこで、収入の内容などで税金の計算方法などを変えています。

所得税の納税義務者とは

所得税の計算には3つの基本的な原則があります。では、次に所得税を納付する必要のある人、つまり所得税の納税義務者とは誰なのかを見ていきましょう。

①個人

個人である納税義務者は2つの種類に分かれます。それが居住者と非居住者です。

・居住者

居住者とは、日本国内に住所がある個人、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人のことをいいます。一般的に、住所とは住所地のことをいい、居所とは短期間の仮住まいを指します。

 

さらに、居住者は「非永住者」「非永住者以外の居住者」に分かれます。非永住者とは、日本国籍を有さず、かつ、過去10年間のうち、国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下である個人のことです。一般の納税者は、「非永住者以外の居住者」に該当します。

・非居住者

居住者以外の個人のことです。

②法人

実は、法人も所得税の納税義務者となっています。これは、従業員の給料から天引きした源泉徴収税などを納める義務があるからです。

非居住者でも所得税がかかる?納税義務の範囲とは

非居住者等に対する課税のしくみ

上述した、所得税の納税義務者の中には、非居住者も含まれています。そのことからも、非居住者には日本に所得税を納める義務があることがわかります。

 

では、非居住者等に対する課税のしくみはどのようになっているのでしょうか。所得税では、まず、個人の納税義務者を「居住者」と「非居住者」に分けます。そのうえで、非居住者に対する課税を国内源泉所得に限っています。つまり、非居住者でも国内源泉所得があれば、日本に所得税を納める必要があります。

 

また、個人事業主が、支店や事業所などの「恒久的施設」を有するか否かなどによって、課税方法が異なります。恒久的施設とは、支店や出張所、工場、事業所、倉庫業者の倉庫など、日本国内に恒久的に存在する施設のことです。

 

例えば、恒久的施設を所有している場合は、確定申告が必要な「申告納税方式」を、恒久的施設を所有していない場合は、確定申告せず源泉徴収のみで課税関係が完結する「源泉分離課税方式の所得税」を支払います。

国内源泉所得と国外源泉所得

非居住者は、国内源泉所得に対して日本に所得税を納める必要があります。では、国内源泉所得とはどのようなものでしょうか。

 

国内源泉所得とは、日本国内に所得の発生源がある所得のことです。国内源泉所得の範囲は広いですが、例えば、日本国内で所有している資産により生じた所得や、弁護士や公認会計士など国内で行う人的役務の提供を事業とする所得などが該当します。

 

日本に持っている不動産を売却したり、日本にある不動産から賃貸収入を得たりしている場合は、日本に所得税を納めます。日本にある不動産を売却して一定の条件を満たす場合は、購入者が源泉徴収をして、所得税を国に納めます。確定申告をすると税金が還付される場合もあり、確定申告をしないと損をすることもあります。

 

国外源泉所得とは、国内源泉所得以外の所得です。

 

個人の所得についてまとめると次のようになります。

 

国内源泉所得 国外源泉所得 課税方法
居住者 非永住者以外の居住者 課税あり 課税あり 申告納税
非永住者 課税あり 一部課税あり 申告納税
非居住者 課税あり 課税なし 申告納税

源泉徴収

非居住者の確定申告の注意点

確定申告の提出は誰がするの?

確定申告は、原則、納税者が自分で所得や税額を計算し、国に申告・納付をする必要があります。しかし、海外に住んでいる場合は、毎年、確定申告をするために日本に帰国することが難しいことも多いでしょう。そんな場合に利用するのが、納税管理人の制度です。納税管理人とは、確定申告書の提出や税金の納付などを本人に代わって行う人のことです。

 

この納税管理人は親族や友達でも構いませんし、税理士などの専門家であっても問題ありません。日本の会社に籍がある人は、その会社に頼んでも問題ありません。納税管理人を通して確定申告をする場合は、「所得税の納税管理人の届出書」を所轄の税務署に提出する必要があるので、注意しましょう。

非居住者は住民税を支払う必要がある?

ここまでは、所得税について見てきました。では、都道府県や市区町村などに支払う住民税はどうなるのでしょうか。

 

原則、その自治体に住所がない場合は、住民税を支払う必要はありません。ただし、住所がなくても事務所や家屋などがある場合は、均等割だけ支払わなければならない自治体もあります。

 

日本に住所もなく事務所や家屋もない場合は、住民税を支払う必要はありませんが、ここで注意しなければならないのが、海外に在住して1年目の住民税です。実は、住民税の支払いは、その年の1月1日時点にその自治体に住所があるかどうかで決まります。例えば、年の途中に海外に移住した場合は、1月1日時点には自治体に住所があるため、海外に在住して1年目は、住民税が課せられる可能性が高くなります。海外に移住する場合は、その前に各自治体に住民税の支払いの有無について確認しておくようにしましょう。

まとめ

非居住者であっても、日本国内に所得の発生源が存在する国内源泉所得がある場合には、日本に所得税を納める必要があります。また、支店や事業所などの恒久的施設を有する場合には、確定申告をする必要があります。その場合、納税管理人を選択するなど、あらかじめさまざまな準備を行っておく必要があります。

 

まずは、自分が国内源泉所得を得ているのか、確定申告が必要かどうかをきちんと判断することが重要となるでしょう。

長谷川よう
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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