個人事業主が従業員を雇用した場合の 税金とその処理方法 | MONEYIZM
 

個人事業主が従業員を雇用した場合の
税金とその処理方法

個人事業主が従業員を雇用した場合、所得税や住民税、社会保険料などの手続きを行う必要があります。また、個人事業主は所得税や住民税、社会保険料などの取引について、帳簿付けしなければなりません。そこで今回は、個人事業主が従業員を雇用した場合の税金と、その処理方法について解説します。

個人事業主が従業員を雇用した場合の手続き

まずは、個人事業主が従業員を雇用した場合の社会保険と税金の手続きから見ていきましょう。

従業員を雇用したら、社会保険の手続きが必要

個人事業主が1人で事業をしている場合は、国民健康保険や国民年金保険に加入して保険料を支払います。しかし、常時5人以上の従業員を雇用している場合(クリーニング業、飲食店などを除く)は国民健康保険や国民年金ではなく、協会けんぽなどの健康保険や厚生年金保険に加入する必要があります。事業所が加入する健康保険や厚生年金保険を社会保険といいます。社会保険に加入する場合は、事実発生から5日以内に所轄の年金事務所(事務センター)に次の書類を提出する必要があります。

・健康保険・厚生年金保険 新規適用届

事業所が社会保険に加入するための書類。社会保険に初めて加入する時のみ必要。事業主の世帯全員の住民票を添付して提出する。

・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届

従業員を雇用する都度、提出が必要な書類。

 

健康保険や厚生年金保険の毎月の保険料は、個人事業主と従業員で折半して負担します。

毎月の給料から社会保険料の金額を天引きし、翌月末日までに年金事務所等に納付します。ただし、初めて従業員を雇用したケースなどでは、納付期限までに納付書が送付されてこない場合もあります。この場合は、所轄の年金事務所等に問い合わせましょう。

この他、雇用保険(一定の要件を満たす従業員)や労災保険にも加入する必要があります。雇用保険や労災保険については、労働基準監督署またはハローワークにお問い合わせください。

従業員を雇用したら、税金の手続きが必要

従業員を雇用したとき、社会保険以外に必要となるのが税金の手続きです。従業員の所得税や住民税を毎月の給料から天引きし、翌月に国や自治体に納める必要があります。これを「源泉徴収制度」といいます。

所得税は、原則、給与を支払った翌月10日までに国に納付する必要があります。しかし、従業員が常時10人未満の場合は、毎月納付の手続きをするのは煩雑であるため、年2回半年分をまとめて納付することが認められています。これを「源泉所得税の納期の特例」といいます。その年の1月から6月までに源泉徴収した所得税等は7月10日までに、7月から12月までに源泉徴収した所得税等は翌1月20日までに納付します。この特例を受けるためには事前に、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を所轄の税務署に提出しておく必要があります。

所得税や住民税の納付書は、所得税は金額欄が空欄のものが、住民税は納付する金額が記載されたものが、毎年、国や自治体から送付されてきます。ただし、初めて従業員を雇用した場合などは、社会保険と同じく、納付期限までに納付書の送付がないことがあります。そんなときは、所轄の税務署や自治体に問い合わせましょう。

従業員に給料を支給した場合の処理方法

では、従業員に給料を支給した場合の毎月の処理方法について確認していきましょう。

従業員に給料を支給した時の仕訳

従業員に給料を支給する際には、所得税や住民税、社会保険料を天引きした後の金額を支給します。その場合の仕訳は次のようになります。

 

例)給料100万円から、健康保険料4万円、厚生年金保険料5万円、雇用保険料1万円、源泉所得税及び復興特別所得税3万円、住民税2万円を差し引いた85万円を普通預金から支払った。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
給料手当 100万円 普通預金 85万円 ○月分給料
預り金 4万円 健康保険料
預り金 5万円 厚生年金保険料
預り金 1万円 雇用保険料
預り金 3万円 源泉所得税及び復興特別所得税
預り金 2万円 住民税

 

給料支払時の注意点

①通常、従業員が複数人いる場合であっても、各人ごとに給料の仕訳はせず、支払った給料の合計金額で仕訳します。

②預り金は、源泉税預り金、住民税預り金など別の負債科目で処理しても問題ありません。

③源泉所得税と復興特別所得税は、分けて仕訳する必要はありません。

税金や社会保険料を支払った時の仕訳

給料から天引きした社会保険料や所得税などは、翌月に国や自治体などに納付します。

①社会保険料の支払い
例)前月の給料から天引きした健康保険料4万円、厚生年金保険料5万円、雇用保険料1万円に、事業主負担分健康保険料4万円、厚生年金保険料5万円、雇用保険料2万円を加えた合計21万円を普通預金から支払った。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
預り金 4万円 普通預金 21万円 健康保険料 従業員負担分
法定福利費 4万円 健康保険料 事業主負担分
預り金 5万円 厚生年金保険料 従業員負担分
法定福利費 5万円 厚生年金保険料 事業主負担分
預り金 1万円 雇用保険料 従業員負担分
法定福利費 2万円 雇用保険料 事業主負担分

 

従業員負担分については、給料支払時の預り金を支払った仕訳をします。事業主負担分は、経費になります。そこで、「法定福利費」という経費科目で仕訳します。雇用保険料は折半ではなく、事業主の方が負担が大きくなります。

②税金の支払い
例)前月の給料から天引きした源泉所得税及び復興特別所得税3万円、住民税2万円の合計5万円を普通預金から支払った。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
預り金 3万円 普通預金 5万円 源泉所得税及び復興特別所得税
預り金 2万円 住民税

従業員の給料が増加したら、税額控除も検討しよう

個人事業主が従業員を雇用している場合で、前年に比べて給料などの金額が増加したときは、控除が受けられることがあります。ここでは2つの控除について簡単に見ていきましょう。

所得拡大促進税制とは

所得拡大促進税制とは、従業員の給与を増加させるとその増加分の一部が所得税から控除される制度のことです。給与総額が前年度より上回っている場合に、その増加率や教育訓練費の増加率、経営力向上などの基準を判定し、給与総額の増加分の15%または25%を税額控除します。

例えば、従業員の給料の総額が200万円増加し、15%の税額控除が受けられる場合は、200万円×15%=30万円もの税額控除となります。税額控除は、納める税金から直接差し引かれる控除であるため、節税効果の大きいものとなります。

雇用促進税制についても検討しよう

所得拡大促進税制よりは適用者が限定されますが、「雇用促進税制」という制度もあります。雇用促進税制は、地方を発展させるための制度です。東京23区から本社機能を地方に移転する事業や、地方において本社機能を拡充する事業を行い、一定の条件を満たす場合は、従業員の増加数に応じて1人あたり最大90万円、または最大60万円の税額控除を受けられます。この制度を利用する条件は複雑ですが、それでも節税効果の高いものになるので、利用できるかどうか一度検討してみるのも良いでしょう。

まとめ

個人事業主が従業員を雇用した場合には、さまざまな手続きや帳簿付けの処理などを行う必要があります。しかし、事業を拡大させるためには、従業員の力は重要です。また、税額控除を利用し、節税していくことも可能な場合があります。最初は大変ですが、慣れてくればある程度同じ作業の繰り返しです。この記事を参考に適切な処理を行いましょう。

長谷川よう
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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