決算賞与での節税対策は危険? メリット・デメリットを解説 | MONEYIZM
 

決算賞与での節税対策は危険?
メリット・デメリットを解説

決算賞与という言葉はご存知ですか? 税金対策の1つとしてよくとられている手法ですが、これにはいくつかの落とし穴があります。今回は決算賞与について、それを支給することのメリットとデメリットを挙げながら解説し、意外と知られていない賞与の未払い金を損金として経理するための要件もご紹介します。

決算賞与とは

決算賞与とは何か

決算賞与とは、決算の際やその前後に臨時で支給する賞与のことです。決算が近づいて当期の財務状況を整理している中で、想定外に多く利益が出てしまうとわかった場合、そのままでは納める法人税額も大きくなってしまいます。そうした時に、決算賞与として利益を従業員に還元すれば、その分を損金に計上して法人税を節税することが可能となります。

決算賞与の目的

上記のように、決算賞与が支給される最大の理由は節税にあります。確かに、後述するような結果的に得られる副次的効果もまた決算賞与のメリットとして挙げられますが、決算賞与をわざわざ支給するという場合は、法人税の払い過ぎを防ぐためであることがほとんどだと言ってもよいでしょう。

夏冬ボーナスとの違い

夏冬ボーナスは、よほどの経営難などでない限り必ず支給され、決算にかかわらずその時期や回数は予め規定されています。それに対して決算賞与は、その事業年度の業績などを踏まえて利益が多く出過ぎるとわかった時にのみ支給されるため、支給の有無が一定ではありません。また、実施される目的も、夏冬ボーナスでは社員のモチベーションアップが主眼におかれる一方、決算賞与では節税効果が何よりも期待されるという点で異なっています。

決算賞与のメリット

節税が出来る

繰り返しになりますが、これが決算賞与において最も重要な点です。決算賞与として従業員に支給するお金は損金に算入できるので、これにより決算賞与分は課税されずに法人税の支払いを減らすことができます。当期の業績が良いあまりに税を納めすぎるくらいならば、頑張ってくれた従業員に還元して他の良い効果を狙おうということです。

従業員のモチベーションが上がる

従業員の立場からすれば決算賞与は、臨時で発生したご褒美の意味合いを持ちます。会社からの謝意として、これまでの努力への労いとこれからの業務への励ましになり、また次年度も決算賞与が給付されるようより意欲的に働くインセンティブとなることも期待できるでしょう。

決算賞与のデメリット

会社に残るお金は減る

一定の額の法人税を払わずに済むようにするためには、その何倍かのお金を使わなくてはならず、結果としてより多くのお金を支出することになります。決算賞与によって納める法人税の総額は減りますが、従業員に支給する総額が法人税の減少額を超えて多くなります。よって、会社に多くお金を残しておきたいのであれば、法人税を素直に払う方が良い場合もあるということになります。

従業員が次年度以降も貰えると期待する

決算賞与を夏冬ボーナスと勘違いしたり、決算賞与についての規定が周知されていないために毎年度給付されるものと思い込んだり、あるいは単純に追加の賞与が欲しいと過度に期待したりすれば、次年度に決算賞与が貰えなかった際に、従業員が必要以上に落ち込み、やる気を失う可能性があります。決算賞与を給付したがために、それ以降の業績がかえって悪化するというような事態を避けるためにも、従業員には決算賞与の仕組み等を細かく通知しておく必要があります。

節税手段としてよく使われるため、税務調査でも確認される

納税額を減らそうとしている以上、税務署としても適切な手順が踏まれているかどうかに注意を払います。支払いがきちんと行われているかなど抜かりなく記録して後日確認ができるようにしておく必要があり、その分の経理上の事務コストが発生することを見越しておかなければなりません。

節税のための要件

未払い金として損金経理するための3つの要件

賞与も給与に含まれるため、損金に計上するならば決算前に支払うのが原則です。しかし以下の要件を満たしていれば、決算時に未払いの賞与についても当該決算が扱う事業年度の損金に算入することができます。逆に言えば、気づかないうちにこれらのどれかが欠けていれば、既に支給していたとしても決算賞与とは見なされなくなります。

  • 事業年度が終了する日までに、賞与の金額を従業員ごとに、全ての従業員に同時期に通知すること
  • 事業年度が終了する日の翌日から1ヶ月以内に、賞与の全額を支払うこと
  • 決算賞与を通知した際に、未払いの賞与として損金の処理をすること

計上できない場合の例

例えば一部の会社では、給与の支払い日の前に退職した者には賞与を支給しないという、いわゆる「支給日在職基準」の規定を設けていることがあります。しかしそのような場合、仮に決算賞与の通知日から賞与が給付される日までの間に退職者が出たとすると、給与日に実際に支給されるのは賞与を除いた額となるため、上記の3要件を満たしていないと見なされます。そのため、このような制度を採用している会社は、支給を済ませた段階にならないと債務が確定しないものと扱われることとなり、たとえ通知から給与日までに退職者がいなく、支払い内容に変更がなかったとしても、未払いの決算賞与は損金として認められません

☆ヒント
損金処理には見落としのポイントがいくつかあり、そのすべてを把握して目を光らせておくことは、専門家でなければ非常に困難です。今回扱った決算賞与に関して言えば、いくら払えば法人税との兼ね合いで最も効果が高いのかといった計算も煩雑になってしまいます。目先の損得にとらわれて十分に理解しないまま踏み切るよりも、信頼できる税理士に相談するなどして、間違いがないか確認しながら実施する方がリスクとコストを抑えることができるでしょう。ビスカスでは、各種税制に精通した優秀なプロフェッショナルを紹介していますので、これを機にご利用を検討されてみてはいかがでしょうか。

まとめ

これまで見てきた通り、決算賞与は決算間近に節税を行う便利な手段ではありますが、安易に支給すると思わぬ落とし穴に落ちる可能性も否定できません。常に長期的な視点に立って、何が得で何が損なのか、果たして決算賞与という選択が適切なのか、慎重に見定めながら進めていく必要があります。

岡田桃子
東京大学卒。
卒業後は中央官庁に勤め、退官後ベンチャー企業に転職し、経理・法務などに携わる。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。
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