【開業1年目】個人事業主の美容室に必須な 税金・社会保険・経理の知識 | MONEYIZM
 

【開業1年目】個人事業主の美容室に必須な
税金・社会保険・経理の知識

開業1年目の美容室経営者は本業のことで頭がいっぱいでしょう。しかし、本業以外のことをおろそかにすると、美容室経営の足を引っ張りかねません。そこで、開業1年目の個人事業主に特化した、美容室経営に必須な税金・社会保険・経理の知識について解説します。

開業1年目の美容室が知るべきこと

個人事業主として美容室を開業したら、知るべきことは多岐にわたります。そこで、知るべきことの概要と知らないことのデメリットについて説明します。

美容室が知るべきことの概要

(1)税金の知識

税金の知識で知るべきことは次の4つです。

    • 開業手続:開業届、青色申告承認申請書、青色専従者給与に関する届出書などの提出
    • 所得税:所得金額、所得税の計算方法
    • 消費税:計算方法、課税事業者の範囲
  • 確定申告:確定申告の提出期限、申告方法
(2)・労働保険・社会保険の知識

スタッフを雇用した場合、知るべきことは次の2つです。

    • 労働保険(雇用保険・労災保険):加入者の範囲、事業主の負担額
  • 社会保険(厚生年金・健康保険・介護保険):加入者の範囲、事業主の負担額
(3)経理の知識

美容室の経理で知るべきことは次の3つです。

    • 帳簿作成:合理的な帳簿作成方法
    • 給与計算:月々の給与計算の方法
  • 年末調整:年1回実施するスタッフの給与所得に対する所得税の計算方法

知らないことのデメリット

開業1年目の美容室は資金繰りが大変なのが一般的です。そのため、知るべきことを知らないというデメリットによるダメージがより大きくなる可能性があります。具体的には、次の通りです。

(1)金銭的に損失を被る

たとえば、税金の計算ミスについて、後日税務署から指摘を受けた場合、延滞税などの追徴課税というペナルティを余分に負担しなければなりません。また、別の例として、青色申告承認申請書や青色専従者給与に関する届出書の提出が遅れれば、できるはずの節税ができなくなり、金銭的に損失を被ってしまいます。

(2)経理の手間がかかる

開業したばかりの美容室の経営者は資金繰りが苦しいだけでなく、本業で忙しいのが一般的です。そのため、経理スタッフに対する人件費をかけず、手間も惜しみたいところでしょう。しかし、合理的な帳簿作成の方法を知らないと経理の手間がかかってしまいます。

税金編~知るべき4つの知識~

開業1年目の美容室経営者が最低限知るべき税金の知識について説明します。

開業手続の概要

(1)開業届

開業した日から1ヵ月以内に提出します。

(2)青色申告承認申請書

開業日に応じて、提出期限は次の通りになります。

    • 1月15日以内の場合:3月15日
  • 1月16日以降の場合:開業日から2ヵ月以内
(3)青色専従者給与に関する届出書

配偶者などの親族(専従者)に対する給与を必要経費に計上できるための届出書であり、次の開業日または該当する親族がいることとなった日に応じて、次の通りになります。

    • 1月15日以内の場合:3月15日
  • 1月16日以降の場合:開業日から2ヵ月以内
(4)源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請

従業員10名未満の美容室の場合、スタッフの給与、青色専従者給与、税理士報酬などの支払いから天引きする源泉所得税の支払いを毎月納付から年2回納付にすることが可能です。そのための申請であり、できるだけ速やかに提出することをおすすめします。

所得税の概要

所得税は所得金額を算出して、所得税を計算します。

(1)所得金額の計算方法

そもそも美容室の所得金額は事業所得に該当して、店舗経営のもうけを意味します。そのため、売上から店舗経営のために負担した必要経費を差し引いて事業所得を計算します。その事業所得から医療費控除などの所得控除を差し引いて所得金額を求めます。

(2)所得税の計算方法

上記(1)の所得金額に所得税率(5~45%までの7段階)をかけて所得税を計算します。その所得税から住宅ローン控除や源泉所得税などの税額控除を差し引いて納付税額を求めます。

消費税の概要

美容室の場合、顧客から預かった消費税から支払いに付随する消費税を差し引いた残額が消費税の納付税額になります。

しかし、消費税の納税義務者は原則として、一昨年の課税売上高が1,000万円を超える年に限られます。そのため、開業1年目はもちろん、2年目以降も納税義務者にならない限り、消費税は免除されます。

確定申告の概要

美容室を開業した場合、確定申告をする義務があります。また、開業1年目の場合、事業所得のほかに勤務先から受け取った給与も併せて確定申告をしなければなりません。

確定申告の方法は電子申告と紙媒体での書面提出に大別できます。特に65万円の所得控除ができる青色申告特別控除を受けるためには、提出期限までに確定申告をする必要があります。

社会保険編~加入条件・事業主負担額の知識~

開業1年目の美容室経営者は加入条件と事業主負担額(美容室が負担する分)の知識を押さえておきましょう。

労働保険・雇用保険の概要

労災保険と雇用保険の加入条件と事業主負担額は次の通りです。

(1)加入条件
    • 労災保険:雇用したすべてのスタッフ
  • 雇用保険:週20時間勤務する雇用したスタッフ
(2)事業主負担額
    • 労災保険:スタッフの給与×0.3%
  • 雇用保険:スタッフの給与×0.6%(スタッフ負担分は0.3%)

厚生年金・健康保険・介護保険の概要

厚生年金・健康保険・介護保険の加入条件と事業主負担額は次の通りです。

(1)加入条件

次のすべての条件を満たす美容室

    • 従業員が常時5人以上いる場合
  • 雇用したスタッフがフルタイムの場合(週あたりの勤務時間および月あたりの勤務日数がフルタイムの4分の3以上のパート・アルバイトを含む)
※介護保険は40歳以上65歳未満のスタッフに限られます。
(2)事業主負担額

協会けんぽ東京支部を例にした事業主負担額は次の通りです。

    • 雇用したスタッフが40歳未満の場合:スタッフの給与×14.1%(スタッフ負担分は14.1%)
  • 雇用したスタッフが40歳以上65未満の場合:スタッフの給与×14.885%(スタッフ負担分は14.885%)

経理編~帳簿作成と給与計算・年末調整の知識~

経理を合理的にするためには、帳簿作成と給与計算・年末調整の概要を知っておくべきでしょう。

帳簿作成の概要

実際の帳簿作成は会計ソフトに入力することが主流です。そのため、いかに領収書などのデータを合理的に入力できるかどうかが帳簿作成の効率化を左右します。

給与計算・年末調整の概要

スタッフを雇用した場合、給与計算と年末調整が必須になります。それぞれの業務の概要を見ていきましょう。

(1)給与計算

月々の給与計算は天引きする源泉所得税および各種社会保険料の計算・納付がメインになります。納付期限は次の通りです。

    • 源泉所得税:7月10日、翌年1月20日の年2回(源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請に限る)
    • 厚生年金・健康保険・介護保険:保険料納入告知書が届いた月の末日
  • 労災保険・雇用保険:原則、6月1日~7月10日までの間
(2)年末調整

年末から年初にかけて、スタッフの給与所得に対する所得税を計算します。年末調整で計算した所得税より天引きした源泉所得税が多い場合は差額分をスタッフに還付(返金)します。

美容室経営を円滑にする3つのコツ

美容室経営を本業以外の側面から円滑にするコツを3つ紹介します。

減価償却の計算方法は定率法を選定しよう

美容室の設備費用は購入金額を一括で必要経費に計上できず、耐用年数という税法上の使用可能期間に応じて、複数年にわたって計上します。この計算方法のことを減価償却といいます。

個人事業主の場合、開業手続で何もしないと減価償却費は購入金額を複数年で割った均等額を計上することになります。しかし、減価償却費の計算方法について定率法を選定することで、設備費用の一部を前倒しで必要経費に計上することができます。そのため、開業初期の美容室の所得金額は圧縮でき、所得税の節税につながります。

美容師は雇用契約よりも請負契約がオススメ

そもそも給与計算の手間や各種社会保険料の負担は雇用したスタッフにかかります。そのため、スタッフを雇用する代わりに、たとえばフリーランスの美容師との請負契約にすることで、事務的手間やコストの削減につながります。

帳簿作成は仕組化がポイント

帳簿作成の合理化は業務用ソフトなどの作成データを会計ソフトに連動させることがポイントになり、データの手入力が省略できます。連動させることのできるデータの例は次の通りです。

  • レジアプリの売上データ
  • 銀行口座のデータ
  • クレジットカードのデータ
  • 現金払いの領収書
  • 通販サイトのデータ
  • ネットショップのデータ

まとめ

開業1年目の美容室は本業以外にもやるべきことがたくさんあります。しかも、やるべきことを知らないと金銭的損失を被り、経理の手間がかかってしまいます。そのため、本業以外の業務の工夫をすることで美容室経営の円滑化を図ることが大切になってきます。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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