法人が贈与したり、贈与を受けた場合の税金とは? 贈与と税金について | MONEYIZM
 

法人が贈与したり、贈与を受けた場合の税金とは?
贈与と税金について

贈与という言葉を聞くと、親から子供へなど個人間での贈与を思い浮かべる人も少なくないでしょう。しかし、贈与は個人間でだけ行われるわけではありません。法人から個人への贈与や個人から法人への贈与、法人間での贈与のように法人も関係するケースがあります。そこで今回は、法人と贈与に関する税金について解説します。

はじめに個人の贈与と税金について理解しよう

贈与とは何か、相続との違いについて

贈与といえば、個人の間で行われることが多いです。また、相続は個人間でのみ行われるもので、法人との間の相続はありません。まず、贈与と相続がどのようなものか、その違いを確認しましょう。
 

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贈与とは、所有している財産を生前に無償で後継者などに引き継ぐことです。相続とは、財産を所有しているものが死亡し、その財産を無償で相続人に引き継ぐことです。

贈与と相続はどちらも無償で財産を与えるという意味では同じですが、その行為が生前なのか、死後なのかの違いがあります。

また、相続は被相続人(亡くなった人)の一方的な意志(遺言など)で財産を引き継ぐことができますが、贈与はできません。贈与する側と受け取る側の両方の了承があって初めて成立します。そのため、贈与契約書などを作成することが一般的です。これは法人との間の贈与でも同じです。

個人間の贈与には贈与税がかかる

財産を所有している者が死亡した場合、相続が開始されますが、その際は相続税が発生します。それならば、生前に財産を引き継いでおこうと考える可能性があります。生前に贈与を行い、相続税を少なくしようという行為を減らすため、個人間の贈与には贈与税を課しています。

個人間の贈与では、原則1年間に110万円を超える贈与があった場合、その超えた部分に対して贈与税がかかります。贈与税は贈与した側ではなく、もらった側が支払います。

法人と個人間における贈与と税金

法人から個人へ贈与した場合にかかる税金

ここまでは、個人間における贈与や相続について簡単に見てきました。ここからは、法人と個人との間で贈与があった場合の税金について確認していきましょう。

まずは、法人から個人へ贈与した場合に、法人・個人それぞれにかかる税金から見ていきましょう。

①法人の課税関係

個人間での贈与では、贈与した側に税金がかかることはありません。では、法人の場合はどうなるのでしょうか。法人が個人に現金や預金を贈与した場合の取り扱いは次のようになります。

 

贈与先がその法人の従業員の場合…賞与

贈与先がその法人の役員の場合…役員賞与

贈与先が第三者の場合…寄附金

 

どれも法人の会計上の経費になりますが、法人税の計算上の経費(損金)になるかというと、それぞれで扱いが異なります。

従業員への賞与は全額損金になりますが、役員への賞与は原則、損金になりません。

また、寄附金についても一定額を超える場合、その超えた分は損金になりません。

 

例)第三者に現金10万円を贈与した
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
寄附金 10万円 現金 10万円 現金贈与

 

法人が個人に土地などを贈与した場合は、その財産を時価で渡したと考えます。取得価格と時価の差は、売却益などの収益と考えます。

 

例)役員に土地を贈与した。土地の取得価格は1,000万円、贈与時の時価は1,200万円だった
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
役員賞与 1,200万円 土地 1,000万円 役員贈与
売却益 200万円 役員贈与

 

贈与した法人は、贈与した相手や贈与した財産により、処理方法が大きく異なります。

損金にならない部分や売却益の部分は、法人税の課税対象になります。

②個人の課税関係

次に、贈与を受ける側の個人の税金はどうなるのでしょうか。

その会社の従業員や役員の場合は、賞与を受け取ったとみなされます。そのため、実際の給料と同様に給与所得となり、所得税や住民税が課されます。

 

第三者の場合は、一時的な収入であるとみなされ「一時所得」とみなされます。

一時所得は、「総収入金額-その収入を得るための支出額-特別控除(最高50万円)」で計算します。また、その1/2の金額が他の所得と合算され、所得税や住民税の課税対象となります。

個人から法人へ贈与した場合にかかる税金

次に個人から法人へ贈与した場合に、法人・個人それぞれにかかる税金について見ていきましょう。

①法人の課税関係

法人は財産を無償でもらうため、現金や預金ならその金額を、土地などの財産なら時価の金額を「受贈益」で処理します。その分利益が増えるので、法人税が多くなります。

 

例)個人から時価1,500万円の土地の贈与を受けた
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
土地 1,500万円 土地受贈益 1,500万円 土地受贈
②個人の課税関係

贈与した側の個人にも税金がかかります。個人から法人へ財産を贈与した場合、それは贈与ではなく時価で譲渡(売却)したと考えます。実際には譲渡していないので、これを「みなし譲渡」と呼びます。

取得価額や取得経費などよりも時価の方が高い場合は、譲渡所得として所得税や住民税がかかります。現金など時価のないものについては利益が出ないため、税金はかかりません。

個人から法人へ遺贈した場合にかかる税金

遺贈とは遺言により、個人の死亡後に財産を譲ることをいいます。一般的ではありませんが、法人の役員などが死亡する場合に、法人に財産が遺贈されることがあります。この場合の法人・個人それぞれにかかる税金について見ていきましょう。

①法人の課税関係

遺贈についても、法人は財産を無償でもらうことになるので、課税関係は個人から贈与を受けた場合と同じです。

現金や預金ならその金額を、土地などの財産なら時価の金額を「受贈益」で処理します。その分利益が増えるので、法人税が多くなります。ただし、遺贈を受けたのが同族会社で、遺贈の結果、株価が上がった場合は、株主に贈与税がかかる場合があります。

②個人の課税関係

こちらも、課税関係は個人から贈与を受けた場合と同じです。時価で譲渡(売却)したと考え、譲渡所得として所得税や住民税がかかります。ただし、その税金は相続人が支払うことになります。

法人間における贈与と税金

最後に、法人間で贈与があった場合の税金関係について見ていきましょう。

①贈与をした法人

法人が他の法人へ財産を贈与した場合の取り扱いは、「寄附金」として処理します。

寄附金の額が一定額を超える場合は、その超えた分は損金になりません。

法人が法人に、土地などを贈与した場合は、その財産を時価で渡したと考えます。

取得価格と時価の差は、売却益などの収益と考えます。

損金にならない部分や売却益の部分は、法人税の課税対象になります。

②贈与を受けた法人

贈与を受けた法人は、財産を無償でもらうことになります。現金や預金ならその金額を、土地などの財産なら時価の金額を「受贈益」で処理します。受贈益は収益になるため、法人税の課税対象となります。

まとめ

法人と個人の間で贈与が行われることは、少なくありません。特に法人の代表者や役員などとの間では珍しいことではありません。

しかし、贈与する物や、どちらからどちらへ贈与したかによって、課税関係が大きく異なります。気を付けないと、思ったより税金の支払いが増えたり、個人の場合は税金の支払いを忘れたりすることもあります。そのため、法人と個人の間で贈与を行おうと考えている場合は、贈与した結果、法人・個人ぞれぞれでどれだけの税金の支払いが発生するのかなど、事前にきちんとシミュレーションするようにしましょう。

 

長谷川よう
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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