タダより高いものはない!?
会社・個人間で資産を移転するときの注意点
タダより高いものはない!?  会社・個人間で資産を移転するときの注意点

2018/7/9

 
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同族会社を経営していると、高齢になった親戚から「管理が大変になったので、賃貸用アパートを買い取ってくれないか?」と持ちかけられたりする機会があるものです。

その際に、身内同士だからと極端に安価・無償で資産を移転してしまうと、税務上大きなトラブルになってしまうことがありますので、注意が必要です。

同族会社・個人間で安くまたは無償で資産を売買した場合の課税関係

個人から同族会社に対して安くまたは無償で資産を売却した場合の課税関係

同族会社では会社・役員間の取引が意外に多いものですが、取引の価格に注意しないと「低額譲渡」「無償譲渡」と認定され、税務上大きなリスクを抱えてしまうことがあります。この認定を受けると、法人税、所得税、贈与税と3種類の税金が同時に課税されますし、それぞれの追徴課税の税額も大きくなりがちです。そのため、資金繰りに大きな悪影響を及ぼしてしまいます。

まずは、個人が同族会社に対して安く資産を売却した場合に、どのような課税がなされるのか確認してみましょう。

【資産を売却した個人に対して課税される税金】

個人が法人に対し、時価の1/2未満の価格で資産を売却した場合には「みなし譲渡所得」の制度が適用されます。この制度が適用されると、実際の売買価格ではなく、時価で資産を売却したものとみなして譲渡所得に係る税金の金額を計算することとなりますので、所得税額が大きくなってしまいます。

【資産を購入した法人に対して課税される税金】

法人が時価未満で資産を購入した場合には、時価と購入価額の差額を「受贈益」として認識し、購入した事業年度の益金として計上しなければいけません。したがって、その事業年度の法人税額が大きくなってしまいます。

また、受贈益は消費税法上の課税仕入ではありませんので、消費税の面でも不利になってしまいます。

【同族会社の株主に対して課税される税金】

同族会社が低額譲渡を受けた場合、時価と購入価額の差額を「受贈益」として計上しなければならないことは上記のとおりです。さらに、「受贈益」が発生すると同族会社の価値(正確には、出資や株式の価値)が上がるため、その上がった時価に対して贈与税が課税されます。

同族会社から個人に対して安くまたは無償で資産を売却した場合の課税関係

上記とは逆に、同族会社が個人に対して安くまたは無償で資産を売却した場合について確認してみましょう。

【売却した同族会社に対してかかる税金】

会社が時価よりも低い価格で資産を売却したとしても、あくまで時価と簿価の差額を益金として計上しなければいけません。

例えば、簿価400万円・時価500万円の建物を200万円で売却したケースでは、以下のような仕訳を行うことになります。

現金預金 2,000,000 建物 4,000,000
〇〇 3,000,000 建物売却益 1,000,000

上記の仕訳例の〇〇には、その会社の役員と取引をしたのであれば「役員賞与」、従業員であれば「従業員賞与」、それ以外の第三者であれば「寄付金」など、状況に合わせた勘定科目を用いることになります。

 

従業員に対する賞与の場合、所得税の源泉徴収義務が生じますので、注意が必要です。税務調査で源泉徴収漏れの指摘を受けた場合、従業員から預かるべき源泉徴収税額を一度会社が税務署に立替払いして、会社が従業員に請求しなければいけません。従業員がすんなり支払ってくれればいいのですが、退職していたり、支払に難色を示したりすると困ったことになってしまいます。

他にも、雇用保険と社会保険についても申告し、従業員の負担額を徴収しなければいけません。

また、役員賞与の場合、同じく所得税の源泉徴収義務と、社会保険の申告・負担額の徴収が生じるのはもちろんのこと、役員賞与の取扱いを受けますので損金に算入されず、法人税額の計算上極めて不利になってしまいます。

それ以外の第三者(実際には、同族会社には勤務していない親族であるケースが多いでしょう)の場合、源泉徴収義務の問題は生じませんが、税務上「寄付金」となってしまいます。寄付金の損金算入限度額を超過した場合には損金として算入されませんので、法人税額の計算上極めて不利になってしまいます。

【買い取った個人に対してかかる税金】

低額譲渡を受けた個人には、上記の仕訳例の〇〇に対応する所得が発生したものとして所得税が課税されることとなります。例えば「従業員賞与」「役員賞与」であれば給与所得ですし、「寄付金」であれば一時所得として税額を計算します。また、税の他にも雇用保険や社会保険を負担しなければならないため、思わぬ負担が生じてしまいます。

低額譲渡じゃなくても安心できない!「同族会社の行為計算否認」

同族会社と役員が時価で売買したからといって、必ずしも税務上のリスクがなくなるわけではありません。同族会社を利用して、税金を安くする目的で、同族会社ではない普通の会社では起こりにくいような取引が行われた場合には、税務署はその取引がなかったものとして税額を決定することができます。この規定を「同族会社の行為計算否認」といいます。

適用事例は多くありませんが、合法的に成立している取引を税務署が一方的に無効だと主張して課税するため、事前に予測ができず資金繰りに大きな悪影響を与えてしまいますし、対応にも多くの時間と労力、コストがかかってしまいます。したがって、同族会社・役員間で取引を行う場合には「税金の回避の意図はなく、事業遂行上の目的があったこと」をきちんと説明できるように準備しておく必要があります。

例えば、個人の場合には同じ年に不動産を2つ売却し、1つは利益が、もう1つは損失が出た場合、利益から損失を差し引いて譲渡所得を計算することができます。したがって、会社役員が所有している不動産を売却して利益が出た場合に、含み損が出ているもう1つの不動産を時価で会社に売却してわざと損失を出せば、計算上は税額を抑えることが可能です。その後、また会社から同じ不動産を買い戻せばいいのです。この取引は低額譲渡ではなく、また合法的な取引ではありますが、「同族会社の行為計算否認」を適用されるリスクが高いでしょう。

簡易判定!「時価」の算定方法

これまで述べたように、時価と乖離した金額で同族会社・役員が取引をすると大きな税務上のリスクを抱えてしまいます。しかし、「時価」と言っても具体的な金額を算出するのは困難で、税理士の間ですら意見が分かれています。ここでは、実務上用いられている時価の算定方法を紹介しますが、これらの方法により算出した金額が税務上「時価」と認められることを保証するものではありません。

①不動産鑑定士による鑑定評価額

取引対象が不動産の場合に限定されますが、不動産鑑定士による鑑定評価は裁判などでも高い信ぴょう性が認められていますから、「時価」と認められる可能性が極めて高いでしょう。しかし、高額の費用が必要ですから、税務リスクと比較しながら利用を検討するといいでしょう。

②売買実例

取引対象が頻繁に取引されるものであれば、同じような条件での売買実例が参考になるでしょう。不動産や車両などであれば、買取業者の査定価格が1つの参考になります。

③その他の指標

土地については様々な公的機関がそれぞれの目的で指標を公表しています。

・公示価格

国土交通省が公表している、土地の客観的な評価です。一般的に、時価の90%だと言われています。

・固定資産税評価額

市区町村が公表している、固定資産税を課税するための根拠となる評価額です。一般的に、時価の78%だと言われています。

・路線価

国税庁が公表している、相続税や贈与税の計算に用いられる評価額です。一般的に、時価の約89%だと言われています。

・基準地価

都道府県が公表している、土地の客観的な評価です。一般的に、時価の90%だと言われています。

 

これらの指標から「時価」を算出し、平均額を「時価」として利用することも、実務上広く行われています。

まとめ

このように、同族会社・役員間の資産の売買にはリスクが伴い、時価の算定も簡単ではありません。税理士の中には、同族会社・役員間で取引をすること自体に賛同しない方も多いのです。もし、どうしても売買をしなければならない理由がないのであれば、適正な利用料を支払って貸付・借入を行うことを検討してみてはいかがでしょうか?

千葉勇人
早稲田大学商学部に在学しながら会計事務所に勤務、その後経営学修士を取得し、記帳代行業・海事代理士業を営む。
自分自身が個人事業主・同族企業の会社役員として法人税・所得税・消費税・相続税を「自分ごと」として日々取り扱っている経験をいかし、皆様にとって有意義な情報をご提供します。
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