ガサ入れの恐怖!? 税務調査を乗り切るコツとは | MONEYIZM
 

ガサ入れの恐怖!? 税務調査を乗り切るコツとは

税務調査と聞くと何だか怖いイメージがあると思います。自分の会社はどんな粗探しをされてしまうのか―そう考える経営者や経理の方も多いと思いますが、実は税務調査がどのようなものかをしっかり押さえていれば全く怖がる必要はありません。今回は税務調査について解説していきます。

税務調査って何?

日本では、所得税や法人税、相続税などといった国税を、納税者自身が税額を申告し納税するという申告納税制度という制度を用いています。この制度は、行政が一つ一つのやり取りを確認する手間が省けるというメリットがある一方で、納税者側の申告にミスや漏れがあったり、嘘の内容を申告したりする可能性があるというデメリットもあります。そのような場合に、正しく納められていない税金の回収を目的として、国税局や税務署の人間がチェックに来ます。これが税務調査です。

税務調査の種類

税務調査には、強制調査と任意調査の2種類があります。強制調査は、テレビドラマや映画などでよく目にする、突然大人数でやって来て会社のあらゆるところを徹底的に調べるといった、あの怖いイメージの調査です。これは、「重大な隠ぺい工作を行っている可能性がある、巨額の脱税をしている可能性がある」とされた企業に対して行われるもので、この調査を受けた場合、大半のケースで刑事告発されます。
もう一方の任意調査は、事前に顧問税理士や会社に連絡があり、担当者と日時を決めて帳簿などを調べる地味な調査で、税務調査のほとんどは任意調査に該当します。任意とはいえ、完全に拒否することはできませんが、会社の都合の良い日に税務調査を行うことが可能です。法人の場合は、調査対象になる確立は5%ほどですので、自分の会社が税務調査を可能性はかなり低いかもしれませんが、万が一のときに備えてどのように準備をすれば良いのか知っておくと良いでしょう。

税務調査の流れ

ここで任意調査の流れを確認しましょう。
まずは税務署から電話がかかってきて日程の調整が行われます。この時、指定された日程の都合が悪い場合は再調整が行われます。

税務調査前の準備

日程が決まったら、当日までに資料の準備などを確実にやっておきます。ここで必ず準備しておきたいものを以下にリストアップします。ぜひ役立ててください。

会社の全体像
(1)会社の経歴書 ①設立年月日
②事業の内容
③主な取扱商品
④取引金融機関
⑤支店、営業所等の所在地
⑥役員の状況
⑦主な売上先
⑧主な仕入先
(2)会社の組織図 役員、従業員の職務分担状況
必要書類
(1)帳簿関係 ①元帳
②入金出勤振替伝票
③現金出納帳
④当座預金出納帳(当座預金、小切手のミミ)
※月別の集金世手表、支払予定表
⑥受取手形記入表
⑦売掛表(得意先元帳)
⑧買掛表(仕入先元帳)
(2)売上に関する資料 ①見積書
②工事契約書
②納品書
④請求書
⑤領収書(振込支払の控)
(3)仕入、外注に関する資料 ①見積書
②工事契約書
②納品書
④請求書
⑤領収書(振込支払の控)
(4)経費に関する資料 ①請求書
②領収書(振込支払の控)
(5)棚卸表 清書した表の他、原始記録
(6)預貯金関係 ①会社の普通預金の通帳
②定期貯金、定期積金の通帳及び証書
(7)人件費関係 ①源泉台帳(一人別徴収簿)並びに扶養控除申告書等
②社会保険関係の書類
②特別徴収の住民税の通知書、タイムカードの記録等
表1 税務調査の前に準備するべき書類

準備すべき書類はこれで基本的には問題ありませんが、詳細部分の記入漏れや現実と書類上の齟齬などがないかを確認しましょう。間違いがあった場合は、可能な限り資料をさかのぼり、適切に訂正をしておく必要があります。

税務調査当日

さて、準備が終わり、いよいよ税務調査の当日となりました。当日は朝10時頃から開始します。

午前中に会社の設立目的や利益の上げ方など概況が聞かれます。雑談も交えての会話になりますが、重要なことはしっかり確認してきます。これは会社の代表が答えなければならないので、社長はこの時間帯だけは必ず在席している必要があります。

午前中に概況の聞き取りが終わると、その後は帳簿などの調査に入ります。ここからは在席している必要がありませんので、社長(個人事業主の場合は本人)は自分の仕事に集中していて構いません。時折確認を求められることがありますが、わからないことは確認して後日伝えるようにすれば良いでしょう。この間に、税理士が税務署職員の対応をすることも可能なので、任せられる部分は税理士に任せてしまっても良いかもしれません。

調査は16~17時に終わります。会社や事業の規模にもよりますが、基本的には2日はかかると思っておきましょう。個人事業主でも2日間実施されているケースがあります。

やってくる税務調査官は、1人の場合もあれば2人の場合もあります。これも規模の違いによるものでしょう。税務署の職員の人数が増えてもやることは変わらないので、人数に関しては気にしなくてよいでしょう。

さて、二日目ですが、二日目は朝から帳簿などの調査が始まり、初日同様夕方に終わります。終了の際には、職員の方から問題があった点について指摘があります。その場では報告のみとなり、即座に何か対応することはありません。

その後1カ月以内を目処に、税務署から回答があります。そこで申告内容に誤りがあるとされれば修正申告書を作成し、追加徴収分の税を納めます。もしミスなどがなければ、特にすることはありません。これが終われば税務調査が終わりとなります。

☆ヒント
税務調査の対象になる可能性は、中小企業のうち5%程度とかなり低い確率ですが、いざ税務調査が実際に行われると書類の準備であったり、当日の対応であったりと大変なことがたくさんあります。
本業に専念したい中小企業だからこそ、本業以外のところでコストや時間をかけてしまうと経営的にもかなり大変でしょう。このようなリスクに備えて、日々税理士とコミュニケーションを取り、クリーンな体制を整えておくことが必要かもしれません。

事前に注意しておくことって?

税務調査を受ける上で注意しておきたいことを確認しておきましょう。

毅然とした態度で臨む

①分からないことは分からないと言う
②嘘は言わない
③余計なことを言わない

当たり前のことですが、分からないことに適当に答えたり、嘘をついたりするのはやめましょう。わからない場合はその旨をしっかり伝えることも重要です。税務署の調査はかなり細かく正確に行われます。適当に答えた点について後日違った、ということが分かると非常に心象が悪くなります。また、経費かどうかの判断の当落線上にあるものは再度徹底的に調査され、経費ではないと判断されることもあり得ます。その場で答えを求められているわけではないので、分からないことは調べて後日連絡するようにしましょう。
最初の雑談を含め、税務署の職員は色々なことを聞いてきます。ですが、基本的には質問にのみ機械的に答えていき、余計なことは言わないようにしましょう。そこから深堀されていく可能性があります。

普段からしておくべきこと

日々のお金のやり取りや打ち合わせの相手や時間・場所など、逐一メモと領収証を確実に残しておきましょう。細かいことでもしっかり証明できるようにすると、税務署の職員にもはっきりと主張ができますし、安心して税務調査に臨めます。

企業だけじゃない!個人にもやってくる税務調査

ここまでは中小企業における税務調査をイメージして解説をしてきましたが、税務調査は企業のみが対象ではありません。この項では個人で税務調査に対応する場合について説明をします。

個人にやってくる税務調査とは?

個人にも税務調査が訪れる場合があります。
もちろん個人事業主は税務調査の対象内で、3%ほどの割合で税務調査が行われています。個人事業主における調査も法人と同様で、法人税の代わりに所得税の追加徴税がないかどうかなどを調べられます。また、個人事業主に限らず、かなりの資産を持っている場合や、その資産を相続した場合にも税務調査が行われる場合があります。

個人事業主の場合、確かに、大きな利益を上げていると税務署から注目されやすい傾向にありますが、そもそも確定申告の記入内容が間違っていたりすることが多いため、事業規模が小さい場合でも気は抜けません。事実、個人事業主で税務調査を行われた場合、高い確率で申告漏れを指摘され、多かれ少なかれ追加徴税されます。まずは確定申告を正しく行うことを心がけましょう。

個人の受ける税務調査は法人と違うの?

基本的には法人の場合と内容や流れは同じです。準備する資料も大きくは変わらないでしょう。ただ、最近はネットビジネスも流行っているため、そのような「人に説明するのにひと手間かかる事業」をしている場合は、事業説明に役立つ資料を用意しておいてもいいでしょう。

ただし、法人の場合と異なり、注意しなければならない点もあります。前述通り、税務調査を行う際に会社や税理士に事前通告をするのが一般的ですが、必ず納税者に事前通知をしなければならないという税法上の規定は存在しません。そのため、現金商売や事前に情報があり不正が見込まれるなど、必要性・緊急性がある場合は、事前通告がなくても税務調査が始まる可能性があります。
このように事前通告なしで税務調査が行われるリスクは法人よりも個人事業主の方が高く、実際にそのような個人事業主の場合、税理士を雇っているケースは稀であると考えられます。最悪の場合、突然現れた税務署の人に言われるがまま追加で納税することになってしまう可能性も考えられます。
このようなリスクをなくすためにも、税理士を雇って日頃から相談することが好ましいですが、まずは日々のお金のやり取りやお金の流れを説明できるように、必要なものは残しておきましょう。

個人への税務調査で注意する点

法人の時の注意点を踏まえたうえで、さらに注意するべき点をまとめます。

①通帳を分ける
個人事業主で一番気をつけなければならないのは、個人の通帳と事業用の通帳を分けられていないケースです。個人のお金と事業用のお金が混じっていると、どうしてもその点は厳しく追及されてしまいます。一円たりとも見逃さず、個人のお金と事業用のお金の通帳分けと記帳は確実に行いましょう。

②オンライン上のやりとりも明確化する
最近はアフィリエイトなどをはじめとするインターネットビジネスが大きく成長している通り、あらゆるやり取りがオンライン上で行われている場合があります。また、帳簿に代わりのデータ入力ソフトも台頭しているようです。すべてのやり取りが正しく記録されていて、その証拠がきちんとあるかを確認しましょう。
また、すべてデジタルに頼っていた場合、万が一データが破損してしまっては大変です。バックアップやアナログでの証拠保存も心がけましょう。

☆ヒント
個人事業主の場合、税務調査において申告漏れが高い確率で指摘されてしまいますので、日頃から税理士と深くコミュニケーションを取っておきましょう。会計業務や経理状況をしっかり管理してくれるパートナーがいるだけで、そのリスクはかなり低減されると考えられます。
また、個人事業主に限らず、相続を受けた場合なども税務調査の対象となる可能性があります。きちんと対策をしないと追加徴税を取られてしまうので、相続に詳しい税理士に相談をした方が安心できるでしょう。

おわりに

税務調査について少し理解が深まったでしょうか。税務調査は日頃から適切な会計処理をしていれば恐れることはありません。税理士と日頃からしっかりコミュニケーションをとり、調査が決まったら事前の準備や当日の流れの打ち合わせを進めていくことが大切です。

岡田桃子
東京大学卒。
卒業後は中央官庁に勤め、退官後ベンチャー企業に転職し、経理・法務などに携わる。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。
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