事業主なら知っておきたい所得控除を徹底解説 〜新ルール対応版〜 | MONEYIZM
 

事業主なら知っておきたい所得控除を徹底解説
〜新ルール対応版〜

いま、所得控除は話題性のある内容です。ひとつは配偶者控除・配偶者特別控除の改正。これは主婦の働き方に影響を及ぼします。もうひとつはセルフメディケーション税制の導入。病気の予防を税金面でバックアップする制度です。所得税と住民税の所得控除についての最新情報を徹底解説します。

所得控除の前に押さえるべき所得の計算方法

本人、配偶者、扶養している家族の所得により、所得控除を受けられるかどうかがわかれます。所得とは、仕事で収入を得て、そのために支出した経費を引いた儲けの金額を表します。

所得の計算方法は3パターンある

事業主の場合、基本的に「個人事業主」と「社長など法人役員」によって所得の計算方法が異なります。特殊なケースとして、サラリーマンから個人事業主になった場合が加わり、全部で3パターンに分かれます。

個人事業主の所得の計算方法

おもに事業所得と不動産所得の2種類であり、実際の入出金をベースに仕事での儲けを計算して、さらに青色申告特別控除をマイナスします。

(算式)

収入-経費-青色申告特別控除(65万円または10万円)=所得

法人役員の所得の計算方法

社長など法人役員は自分で設立した会社から給料をもらいます。サラリーマンの給料、主婦のパート、子どものアルバイトと同じ給与所得です。所得の計算方法は年収から給与所得控除という経費の概算額をマイナスします。

(算式)

年収(収入)-給与所得控除(経費)=所得

 

給与所得控除の目安となる金額は、年収に応じて次の通りです。

年収 給与所得控除
162.5万円以下 65万円
162.5万円超180万円以下 収入金額(年収)×40%
180万円超360万円以下 収入金額×30%+18万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+54万円
660万円超1,000万円以下 収入金額×10%+120万円
1,000万円超 一律220万円

サラリーマンから個人事業主になった場合の所得の計算方法

会社からもらう給料は給与所得、個人事業主の所得は事業所得・不動産所得であり、それぞれの金額を合計したのが所得です。

(算式)

・事業で黒字の場合:給与所得+事業所得・不動産所得=所得

・事業で赤字の場合:給与所得-事業所得・不動産所得=所得

話題の配偶者控除と配偶者特別控除とは?

根本的に制度が見直されたため、平成29年と平成30年以降では計算方法が異なります。まず、配偶者控除と配偶者特別控除が受けられる条件を確認しましょう。

(1)配偶者控除を受けられる条件

区分 条件
平成29年
(住民税は平成30年)
個人事業主 ・配偶者に給料を支払わないこと
法人役員 ・配偶者に給料を支払っても、所得が38万円以下であること
平成30年以降
(住民税は平成31年以降)
個人事業主 ・配偶者に給料を支払わないこと

・本人の所得が1,000万円以下であること

法人役員 ・配偶者に給料を支払っても、所得が38万円以下であること

・本人の所得が1,000万円以下であること

(2)配偶者特別控除が受けられる条件

区分 条件
平成29年
(住民税は平成30年)
個人事業主 ・配偶者に給料を支払わないこと

・本人の所得が1,000万円以下であること

法人役員 ・配偶者に給料を支払っても、所得が38万円以上76万円未満であること

・本人の所得が1,000万円以下であること

平成30年以降
(住民税は平成31年以降)
個人事業主 ・配偶者に給料を支払わないこと

・本人の所得が1,000万円以下であること

法人役員 ・配偶者に給料を支払っても、所得が38万円以上123万円以下であること

・本人の所得が1,000万円以下であること

平成29年の配偶者控除と配偶者特別控除

具体的な金額は次の表の通りです。なお、住民税は平成30年が計算対象となります。

配偶者の所得 所得税 住民税
配偶者控除 配偶者
特別控除
配偶者控除 配偶者
特別控除
38万円以下 70歳未満 38万円 33万円
70歳以上 48万円 38万円
38万円を超え40万円未満 38万円 33万円
40万円以上45万円未満 36万円
45万円以上50万円未満 31万円 31万円
50万円以上55万円未満 26万円 26万円
55万円以上60万円未満 21万円 21万円
60万円以上65万円未満 16万円 16万円
65万円以上70万円未満 11万円 11万円
70万円以上75万円未満 6万円 6万円
75万円以上76万円未満 3万円 3万円
76万円以上 0円 0円

平成30年からの配偶者控除と配偶者特別控除

平成30年以降の配偶者特別控除は、所得控除が受けられる配偶者の所得の範囲が広くなります。しかし、その一方、本人の所得の金額が多いほど所得控除の金額が小さくなります。具体的な金額は次の通りです。なお、住民税は平成31年以降が計算対象となります。

  • 本人の所得が900万円以下の場合
配偶者の所得 所得税 住民税
配偶者控除 配偶者
特別控除
配偶者控除 配偶者
特別控除
38万円以下 70歳未満 38万円 33万円
70歳以上 48万円 38万円
38万円を超え85万円以下 38万円 33万円
85万円を超え90万円以下 36万円
90万円を超え95万円以下 31万円 31万円
95万円を超え100万円以下 26万円 26万円
100万円を超え105万円以下 21万円 21万円
105万円を超え110万円以下 16万円 16万円
110万円を超え115万円以下 11万円 11万円
115万円を超え120万円以下 6万円 6万円
120万円を超え123万円以下 3万円 3万円
123万円を超え 0円 0円
  • 本人の所得が900万円を超え950万円以下の場合
配偶者の所得 所得税 住民税
配偶者控除 配偶者
特別控除
配偶者控除 配偶者
特別控除
38万円以下 70歳未満 26万円 22万円
70歳以上 32万円 26万円
38万円を超え85万円以下 26万円 22万円
85万円を超え90万円以下 24万円
90万円を超え95万円以下 21万円 21万円
95万円を超え100万円以下 18万円 18万円
100万円を超え105万円以下 14万円 14万円
105万円を超え110万円以下 11万円 11万円
110万円を超え115万円以下 8万円 8万円
115万円を超え120万円以下 4万円 4万円
120万円を超え123万円以下 2万円 2万円
123万円を超え 0円 0円
  • 本人の所得が950万円を超え1,000万円以下の場合
配偶者の所得 所得税 住民税
配偶者控除 配偶者
特別控除
配偶者控除 配偶者
特別控除
38万円以下 70歳未満 13万円 11万円
70歳以上 16万円 13万円
38万円を超え85万円以下 13万円 11万円
85万円を超え90万円以下 12万円
90万円を超え95万円以下 11万円
95万円を超え100万円以下 9万円 9万円
100万円を超え105万円以下 7万円 7万円
105万円を超え110万円以下 6万円 6万円
110万円を超え115万円以下 4万円 4万円
115万円を超え120万円以下 2万円 2万円
120万円を超え123万円以下 1万円 1万円
123万円を超え 0円 0円

確定申告と年末調整の両方で受けられる所得控除

個人事業主は確定申告で所得控除を受けることになりますが、法人役員など会社から給料をもらっている人は配偶者控除と配偶者特別控除を含めて、年末調整でも所得控除が受けられる項目を取り上げます。

お金を負担しなくても受けられる所得控除

所得控除の中でも、家族を扶養することで受けられる項目を中心に紹介します。

(1)障害者控除
所得控除が受けられる条件 所得税 住民税 備考
通常の
障害者
次の者が障害者であること

・本人

・所得が38万円以下の配偶者など家族(年齢は関係なし)

27万円 26万円 下記を除く障害者
特別
障害者
40万円 30万円 重度の障害者(身体障害1,2級など)
同居特別
障害者
75万円 53万円 重度の障害者と同居している場合
(2)寡婦(夫)控除
所得控除が受けられる条件 所得税 住民税
寡夫控除
・本人の所得が500万円以下であること
・妻と死別・離婚してから再婚していないこと
・所得が38万円以下の子どもを扶養していること
27万円 26万円
通常の寡婦控除

①夫と死別して再婚していない場合

・本人の所得が500万円以下であること

※子どもを扶養しているかどうかは関係ありません。

 

②夫と離婚して再婚していない場合

・所得が38万円以下の子どもを扶養していること

※本人の所得は関係ありません。

27万円 26万円
特定の寡婦控除
・本人の所得が500万円以下であること
・夫と離婚して再婚していないこと
・所得が38万円以下の子どもを扶養していること
35万円 30万円
(3)勤労学生控除
所得控除が受けられる条件 所得税 住民税
・学生であること

・所得が65万円以下(年収130万円以下であること)など

27万円 26万円
(4)扶養控除
所得控除が受けられる条件 所得税 住民税
一般の扶養控除 所得が38万円以下である次の年齢の家族

・16歳以上19歳未満

・23歳以上70歳未満

38万円 33万円
特定扶養控除 所得が38万円以下である19歳以上23歳未満の家族 63万円 45万円
老人扶養控除(70歳以上) 所得が38万円以下である同居していない70歳以上の家族 48万円 38万円
所得が38万円以下である同居している直系尊属でない義理の父母など姻族である70歳以上の家族 45万円
所得が38万円以下である同居している直系尊属である実父母など血族である70歳以上の家族 58万円
(5)基礎控除
所得控除が受けられる条件 所得税 住民税
無条件で受けられる 38万円 33万円

お金を負担すると受けられる所得控除

実際にお金を負担すると、確定申告または年末調整で受けられる所得控除が4つあります。

(1)社会保険料控除

「国民年金や国民健康保険など自分で支払うもの」と「厚生年金や健康保険など給料から天引きされるもの」に区分されます。本人が支払った全額が所得控除の対象となります。反対に扶養している両親の年金から天引きされた介護保険料などは所得控除となりません。

(2)生命保険料控除

生命保険にはいろいろ種類がありますが、所得控除の金額を計算する上では5つに区分されます。

新契約:平成24年1月1日以降に契約を結んだ生命保険

①新(一般)生命保険料

②新個人年金保険料

③介護保険料

  • 旧契約:平成23年12月31日以前に結んだ生命保険

④旧(一般)生命保険料

⑤旧個人年金保険料

 

次の所得控除ができる金額の限度額を所得税と住民税に分けて説明します。

所得税
契約の種類 各生命保険の最高限度額 新契約と旧契約を合わせた
各生命保険の最高限度額
トータルの所得控除の
最高限度額
新(一般)
生命保険料
4万円 5万円 12万円
旧(一般)
生命保険料
5万円
新個人年金
保険料
4万円 5万円
旧個人年金
保険料
5万円
介護保険料 5万円
住民税
契約の種類 各生命保険の最高限度額 新契約と旧契約を合わせた各生命保険の最高限度額 トータルの所得控除の最高限度額
新(一般)
生命保険料
2万8,000円 3万5,000円 7万円
旧(一般)
生命保険料
3万5,000円
新個人年金
保険料
2万8,000円 3万5,000円
旧個人年金
保険料
3万5,000円
介護保険料 3万5,000円

 

続いて、契約の種類ごとの所得控除の計算方法を紹介します。

所得税
契約の種類 年間の支払保険料 控除額
新契約 ・新(一般)生命保険料控除

・個人年金保険料控除

・介護医療保険料控除

2万円以下 支払保険料の全額
2万円を超え

4万円以下

支払保険料×1/2+1万円
4万円を超え
8万円以下
支払保険料×1/4+2万円
8万円を超え 一律 4万円
旧契約 ・旧(一般)生命保険料控除

・個人年金保険料控除

2万5,000円以下 支払保険料の全額
2万5,000円を超え

5万円以下

支払保険料×1/2+1万2,500円
5万円を超え

10万円以下

支払保険料×1/4+2万5,000円
10万円を超え 一律5万円
住民税
契約の種類 年間の支払保険料 控除額
新契約 ・新(一般)生命保険料控除

・個人年金保険料控除

・介護医療保険料控除

1万2,000円以下 支払保険料の全額
1万2,000円を超え

3万2,000円以下

支払保険料×1/2+6,000円
3万2,000円を超え5万6,000円以下 支払保険料×1/4+1万4,000円
5万6,000円を超え 一律2万8,000円
旧契約 ・旧(一般)生命保険料控除

・個人年金保険料控除

1万5,000円以下 支払保険料の全額
1万5,000円を超え

4万円以下

支払保険料×1/2+7,500円
4万円を超え

7万円以下

支払保険料×1/4+1万7,500円
7万円を超え 一律 3万5,000円
(3)地震保険料控除

地震保険に加入した場合に受けられる所得控除です。

税目 所得控除の金額 限度額
所得税 支払保険料の金額 5万円
住民税 支払保険料の金額×1/2 2万5,000円
(4)小規模企業共済

小規模事業主のための退職金制度であり、掛金は月額1,000円~7万円まで500円単位で設定でき、全額所得控除できます。加入資格は主に次の条件です。

・従業員が5人以下である小売業・卸売業・サービス業(宿泊業や娯楽業を除く)・税理士法人等の士業などの個人事業主・法人役員

・従業員が20人以下である建設業・製造業・運輸業・不動産業・宿泊業・娯楽業などの個人事業主・法人役員 など

 

また、所得税と住民税の節税効果は次の表の通りです。

課税される所得金額 加入前の税額 加入後の節税額
所得税 住民税 月額掛金1万円 月額掛金3万円 月額掛金5万円 月額掛金7万円
200万円 10万4,600円 20万5,000円 2万700円 5万6,900円 9万3,200円 12万9,400円
400万円 38万300円 40万5,000円 3万6,500円 10万9,500円 18万2,500円 24万1,300円
600万円 78万8,700円 60万5,000円 3万6,500円 10万9,500円 18万2,500円 25万5,600円
800万円 122万9,200円 80万5,000円 4万100円 12万500円 20万900円 28万1200円
1,000万円 180万1,000円 100万5,000円 5万2,400円 15万7,300円 26万2,200円 36万7,000円

(出典元:中小機構)

http://www.smrj.go.jp/doc/kyosai/s_seido_shiori.pdf

確定申告のみで受けられる所得控除

個人事業主はもちろん、法人役員でも確定申告でしか所得控除できない項目があります。

医療費控除とセルフメディケーション税制

いずれも病気などに対して負担した金額の一部を所得控除でき、医療費控除とセルフメディケーション税制のいずれかを選択できます。それぞれの制度を比較しましょう。

項目 医療費控除 セルフメディケーション税制
概要 医療費の負担に対する所得控除 病気の予防に対する所得控除
所得控除の金額 医療費-保険金等-所得の5%(限度額10万円) スイッチOTC医薬品の購入費用-1万2,000円
所得控除の最高限度額 200万円 8万8,000円
所得控除できる費用の範囲 病院代、薬代、通院に必要な電車・バス代など スイッチOTC医薬品
必要書類 医療費の領収書、ドラッグストアなどのレシート ・スイッチOTC医薬品の領収書、レシート

・健康診査、予防接種、健康診断、がん検診などの診断書

※スイッチOTC医薬品の購入だけでは所得控除は受けられないため、必ず健康診断などを受ける必要があります。

所得控除が受けられる期間 期限なし 平成29年1月1日~平成33年12月31日の間に限定

気になるふるさと納税〜寄附金控除〜

ふるさと納税は寄付金控除の一種です。まず、寄付金控除について解説します。

(1) 概要

所得税と住民税の計算上、次の金額が所得控除できます。

・所得控除の金額=寄付金または所得の40%のうち少ない金額-2,000円

(2)寄付金の範囲

国、都道府県、市区町村に対する寄附金など(国立大学への寄付などを含む)

(3)ふるさと納税とは

ふるさと納税として寄付した金額から2,000円を引いた残額が所得税と住民税から控除できます。その仕組みは次の図の通りです。

(出典元:総務省|ふるさと納税ポータルサイト)

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/mechanism/about.html

 

ふるさと納税は、他の寄付金控除と違って、所得控除に加えて、特例分が税額控除できます。

たとえば、ある市にふるさと納税として3万円寄付したとします。所得控除による節税効果が1万円の場合、「3万円-1万円-2,000円=1万8,000円」が特例分として住民税から控除できます。そのため、3万円から2,000円を差し引いた残額2万8,000円の節税効果が得られます。

意外と忘れがちな雑損控除

災害などの被害額に対して所得控除できるのが雑損控除です。その被害額の対象となる範囲が想像より広いため、確定申告で所得控除をするのを忘れがちです。それでは、所得控除できる金額と範囲について解説します。

(1)所得控除できる金額

次のうち多い金額

①(損失額+災害などに伴い支出する費用-保険金等)-所得の10%
②災害などに伴い支出する費用-5万円

(2)被害額の対象となる範囲

①損失額・災害などにより損害を受けた資産の時価
②災害などに伴い支出する費用:盗難や横領の被害額、除雪費用やシロアリ駆除などに負担した金額

まとめ

今回は所得控除について紹介しました。特に配偶者控除・配偶者特別控除は配偶者の働き方に影響を及ぼします。また、セルフメディケーション税制はスイッチOTC医薬品の購入費用が1万2,000円を超えると所得控除が受けられるため、「医療費控除=10万円以上の医療費」というイメージを覆すほどのインパクトがあります。この記事を機に税金に関する最新情報をチェックしてみましょう。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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