事業主のための経費を徹底解説
〜法人と個人事業主の違い〜
事業主のための経費を徹底解説  〜法人と個人事業主の違い〜

2017/12/14

 
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さまざまな支出を経費に落とせるかどうか事業主としては気になるところではないでしょうか。ひと口に経費といっても、法人と個人事業主では違いがあります。その背景には、前者はオーナー(=株主)と経営者は別人というのが建前に対して、後者は同一人物であることが大前提です。この違いが両者の経費の取り扱いに影響を及ぼしています。

個人事業主よりも法人のほうが経費に落とせる範囲が広い

同じ事業活動による費用であるにもかかわらず、個人事業主よりも法人のほうが経費に落とせる範囲は広くなります。その理由と具体例について解説します。

法人は営利目的が大前提、だから経費として認められやすい

「営利目的が大前提?」「法人が経費として認められやすいのはなぜ?」このような疑問が湧くのは事業主として当然です。

話の核心に入る前に、疑問を理解する補助輪として、個人事業主の経費について解説します。

たとえば、携帯電話を仕事に使用していると仮定します。個人事業主の場合、社長がプライベート用に使用しても、誰も文句は言いません。オーナーと経営者(社長)は同一人物であり、自分の財産(携帯電話)の使用方法は自由だからです。そのため、個人事業主は公私混同できる土壌であり、税務署が携帯電話を本当に事業用に使用したかどうかを厳しくチェックするのは当然といえます。

しかし、法人は異なります。そもそも株式会社など法人はオーナーの物というのが税法の立場です。そのオーナーが別の人物に経営を委託するのが建前となっています。また、オーナーは法人が獲得した利益一部を分配してもらいます。したがって、経営者が携帯電話を公私混同して利益を食いつぶすことは許されません。利益を獲得するというオーナーの期待を裏切ることになるからです。

このように法人の場合、経営者が利益を獲得しなければならない立場であり、必然的に営利目的が大前提になります。そのため、携帯電話は確実に事業用に使用するものと考えられているため、個人事業主よりも法人のほうが経費に認められやすくなります。

法人は配偶者など代表者の家族に対する給料が経費として認められやすい

個人事業主の場合、所得金額を配偶者などに分配して、税率を意図的に下げられます。たとえば、事業主に所得金額1,000万円があると仮定します。そのとき、配偶者へ500万円の給料を支給した場合と支給しない場合では、次のように税率が異なります。

・支給した場合

所得金額は「1,000万円―給料500万円=500万円」で、税率は30%(所得税20%・住民税10%)です。

・支給しない場合

所得金額は1,000万円で、税率は43%(所得税33%・住民税10%)です。

つまりこの場合、配偶者へ給料を支給することで、税率を「43%→30%」と13%下げられます。

しかし、このような公私混同を牽制(けんせい)するために、おもに次の制約を設けています。

・事前に税務署へ青色事業専従者給与の届出をする
・「家族への給料を経費に落とす」および「家族を扶養控除(=所得控除)の対象にする」 これらを併用できない

一方法人の場合、配偶者など家族への給料を経費に落とすために事前に税務署へ届け出る必要はありません。また、給料を支給する家族は扶養控除が受けられます。法人は営利目的が大前提であり、公私混同しないのが建前となっているためです。

このように、家族への給料を用いた節税では法人に軍配が上がります。

代表者に支払う費用も経費に落とせるのが法人のメリット

個人事業主の場合、オーナーと経営者(代表者)は同一であるため、自分が自分に費用を負担しても、お金は減りません。たとえば、代表者に給料という名目で1,000万円支給しても、事業用の銀行口座からプライベート用の銀行口座へ移るだけで、トータルの現金預金は同額です。

しかし、法人は代表者に給料を支給すると、会社名義の銀行口座残高は減り、個人の銀行口座残高は増えます。つまり、それぞれの現金預金が増えたり減ったりします。

そこで、代表者に支払う費用のうち、次の2つを取り上げます。

(1)社宅家賃

法人の場合、代表者の社宅家賃の一部を補助すると、会社の経費に落とせます。会社が代表者に対する福利厚生費用と認識されるからです。会社(オーナー)と個人(代表者)が別人格のために、このような考え方が成り立ちます。

(2)出張手当

法人が代表者へ支払う出張手当は会社の経費に落とせます。会社と個人が別人格だからです。個人事業主が自分(代表者)に出張手当を支払っても、トータルの現金預金は同額であるため経費として落とせません。

あらゆる損が法人の経費に落とせる

個人事業主は所得を10種類に分類しています。それによって、株式や土地など資産の売却損などは事業所得や不動産所得と相殺できません。

しかし、法人は所得をひとまとめに考えます。そのため、事業活動での所得金額と資産の売却損が相殺できます。法人の株取引や資産の売却行為なども、営利目的に基づく行動と考えられているからです。

たとえば、株式で損すれば利益は減り、オーナーへ分配する財源が減ってしまいます。これでは法人の財産が減り事業活動の足を引っ張ることから、あらゆる損が経費として落とせるのです。

法人が経費に落とすためのルール

法人と個人事業主は事業活動による費用を経費に落とせる点では共通していますが、そのルールには違いがあります。そこで、経費に落とすルールについて、両者の共通点と異なる点を解説します。

個人事業主との共通点

結論から申し上げると、経理処理を失念しても経費に落とせる項目の取り扱いが法人と個人事業主の共通点です。

たとえば、確定申告で従業員の締め後の給料について、経理処理を失念して経費に落とさなかったと仮定します。締め後の給料とは、支払日は決算日(個人事業主は12月31日)より後ですが、その年度内に働いた分の給料は経費として落とせます。

たとえば、毎月20日締め25日払いの月給30万円の場合、21日~月末までの約10日間の給料10万円(月給30万円×10日÷30日)が締め後の給料です。

経理処理ミスで経費に落とせない項目

個人事業主の決算書は所得金額(=税金)を計算するのが目的ですが、法人はオーナーへ分配すべき利益を算出するのが目的です。利益と所得金額がイコールでないため、法人の税金は前者の計算を優先させます。

その利益の計算は経理処理がベースです。そのため、金額に見解の相違があり得る経費は経理処理ミスで経費に落とせません。

たとえば、新車の営業車240万円は使用可能期間に応じて、複数年にわたって経費に落とします。この計算方法を減価償却といいます。税法上の耐用年数(=使用可能期間)は6年です。この場合、「240万円÷6年=40万円」の減価償却費が経費に落とせます。

しかし、営業車の使用可能期間を8年と解釈して、経理処理で「240万円÷8年=30万円」だけ経費に落としていたと仮定します。個人事業主の場合は、残りの10万円を追加で経費に落とせますが、法人にはそれが認められません。この30万円は法人の見解であり、利益の計算が所得金額の計算より優先されるからです。

※法人が経理処理で、営業車の使用可能期間を4年と解釈して、「240万円÷4年=60万円」の減価償却費を計上しても、税法の基準額40万円との差額20万円は経費に落とせません。

そもそも、法人の利益はオーナーへ分配する財源です。そのため、見解の相違である減価償却費の追加計上を認めてしまうと、分配する財源を減らされたオーナーが不利益を被ってしまいます。

このように法人は、金額に見解の相違があり得る費用は、経理処理をすることを条件に経費に落とせるのです。

株式総会の承認が必要な経費

法人はオーナー(=株主)の物というのが税法の立場です。株主の意思を決定する機関が株主総会(合同会社などの場合は社員総会)です。

株主総会の承認が必要な経費の代表格が役員退職金です。法人の役員は株主が選び経営を委託します。そのため、株主が株主総会で正式に承認した段階で、役員退職金は経費に落とせるのです。

また、代表者の役員退職金を経費に落とせるのは法人のメリットです。個人事業主はオーナー(会社)と経営者(代表者)が同一人物のため、代表者の退職金という考えが成り立たず、経費に落とせません。

法人の経費には落とし穴がある

今までは法人のほうが経費に落としやすいことを中心に述べてきました。しかし、思わぬ落とし穴があります。そこで、2つの例を取り上げます。

代表者に対して支払う費用が事業用と認められなかった場合は?

法人はオーナー(会社)と経営者(代表者)は別人格ですが、現実は個人事業主のように事実上、同一人物であるケースが圧倒的に多くなります。そのため、税法は代表者の公私混同を想定します。

たとえば、接待ゴルフ代として法人の経費に落としていたと仮定します。しかし、実際は代表者のプライベートにかかる費用であると発覚した場合は個人事業主よりも厳しいペナルティを受けます。

実際に、経費に認められなかった場合は法人の所得金額にプラスされて、法人税などが課税されます。さらに、最悪の場合は代表者へのボーナス(役員賞与)とみなされることがあり得ます。ボーナスは給与所得であり、代表者にも所得税と住民税が課税されます。つまり、法人と代表者に2重課税されます。

一方、個人事業主の場合は代表者に課税されるだけですみます。

このように法人の場合、公私混同した場合におけるデメリットがあります。

生命保険料は全額経費に落とせるが、保険金収入が全額課税の対象になる

法人は一定の条件を満たせば、生命保険料は全額経費に落とせます。一方、個人事業主の場合、代表者に対する生命保険料は所得控除できる金額が最高12万円です。一見、法人のほうが得するように見えますが、実は大きな落とし穴があります。それは保険金収入を受け取った段階で法人と個人事業主を比較するとわかります。具体的には次の通りです。

・法人:保険金収入が全額課税の対象になる
・個人:保険金収入から過去に支払った保険料を経費に落とした残りが課税の対象になる

要するに、法人と個人事業主の違いは経費に落とせるタイミングだけです。

法人が保険料を用いて節税する場合は、「資金繰りが苦しくなった場合に準備するなど将来のリスクヘッジ」や「代表者の退職金の財源を確保する」など節税のほかの目的を明確にするのがポイントです。

まとめ

法人と個人事業主の経費は似ているようで、違いがたくさんあります。今回は両者の違いやその背景を中心に解説してきました。特に法人は役員退職金を経費に落とすためには株主総会の決議が必要であるなどわかりづらい点がありますが、専門家を活用すれば難しい部分をフォローしてくれるでしょう。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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