消費税改正で何がどう変わる? ~個人編~
消費税が10%になっても、
食品など一部の税率は据え置きに?
消費税改正で何がどう変わる? ~個人編~  消費税が10%になっても、  食品など一部の税率は据え置きに?

2015/11/18

 
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今回のテーマは「消費税」。2017年4月に消費税率が現在の8%から10%に引き上げられる予定ですが、食品など一部の品目については税率が据え置かれる可能性も高まっているようです。消費税改正をめぐる昨今の議論と、わたしたちの家計にどう影響するのかについて、税理士の中垣光博先生に聞きました。

【今回の専門家は…】税理士 中垣光博先生(あすな会計事務所)


「消費税」は、わたしたちの生活に最も身近な税金のひとつですが、身近すぎるせいか、何のための税金で、どのような仕組みになっているのかといったことは、普段あまり深く考えたことがありません。いまさらですが、まず消費税とはどういうものなのかについて教えていただけますか?

消費税とは、その名のとおり、わたしたち消費者がモノやサービスを「消費する」行為に対し、支払う金額に応じて課税される税金のことです。
1989(平成元)年4月に導入され、当初の税率は3%からスタートしました。その後、1997(平成9)年4月には税率が5%に、2014(平成26)年4月には8%に引き上げられ、ご承知のとおり2017(平成29)年4月には10%となる予定です。

そもそも、消費税はなぜ導入されたのでしょうか?

日本がかつての高度経済成長時代から低成長時代に移行し、税収が減って、国の財政が非常に苦しくなっていたからです。歳入が減る一方、高齢化の進行とともに医療費や年金といった社会保障負担が増えて、国の借金はどんどん膨らんでいきました。
現在、国の借金は日本のGDP(国内総生産)の2倍強に当たる1057兆2235億円(2015年6月末時点)にも達していますが、この借金の山は1980年代ごろから少しずつ積み上がってきたのです。
そこで政府は、少しでも歳入を増やして借金を減らすべく、既存の税制を見直し、新たな税金を設けるといった取り組みを進めてきました。なかでも、とくに大きな税収アップが期待できる税金として導入されたのが消費税だったというわけです。

その後、消費税率が2度にわたって引き上げられたのは、税収アップの効果が不十分だったのでしょうか?

高齢化や少子化のスピードはあまりにも速く、社会保障費などの歳出は予想を上回る勢いで膨らんでいきました。しかも1990(平成2)年ごろにいわゆる“バブル景気”が崩壊すると、日本は「失われた20年」と呼ばれる長期デフレ不況時代に突入します。その結果、法人税や所得税などの税収は伸び悩み、ますます借金が膨らむという悪循環に陥りました。そこで、少しでも税収を増やすために、消費税率を5%、8%と段階的に引き上げてきたのです。
このような経緯からもわかるように、ひと言で言えば、消費税は国による社会保障費の負担を抑えるために導入された税金です。
もちろんおカネに色はついていないので、消費税が社会保障以外の目的で使われることもまったくないとは言えませんが、原則的には、わたしたち国民の健康な暮らしや老後の安心を支えるための財源として利用されることになっています。

なるほど。要するに消費税というのは、国がわたしたちの医療費の一部を負担したり、年金を払ったりするための財源を、国民全員で補填する仕組みなのですね。

国民全員というと平等のように聞こえますが、実は「逆進性」という問題があります。逆進性とは、所得が低い人ほど税の負担率が高くなる性質のことです。たとえば所得税の税率は、年間所得が195万円以下の人なら5%、195万円超330万円以下の人なら10%と段階的に上がり、年間所得が1800万円を超えると40%の税率が適用されます。つまり、所得が高い人ほど税の負担率が高くなるのです。これは「累進性」と呼ばれ、累進性を採り入れた課税方式を「累進課税」と言います。
ところが消費税の税率は、年間所得が195万円以下の人でも、1800万円を超える人でも、一律8%です。一見、公平に思えるかもしれませんが、じつは所得の高い人ほど相対的に税率は低くなり、所得が低い人ほど税率が高くなる構造になっているのです。これが逆進性の問題です。
たとえば1年間に100万円の買い物をしたとすると、消費税率が8%なら、納める消費税の額は8万円ですよね。これは年間所得1800万円の人にとっては所得のわずか0.4%強ですが、年間所得195万円の人の場合は4%強になります。所得を物差しとすると、納税負担の差が10倍近くに達することもあるわけです。

ということは、消費税率が上がれば上がるほど、逆進性の問題は大きくなりますね。税率が10%に上がったら、低所得者の不公平感はますます高まるのではないでしょうか。

とはいえ、逆進性の悪影響というのは、実際にはそれほど大きくないと思いますよ。なぜなら所得の高い人のほうが、より多く消費しているはずですからね。消費額が増えれば、その分、消費税の納税額も増えるので、結果的に不公平感はかなり緩和されます。
また、消費税率を5%から8%に引き上げることを盛り込んだ2013(平成25)年度の「税制改正大綱」には、「住宅ローン減税制度」の最高控除額の引き上げなど、家計の負担を緩和する措置も盛り込まれています。なるべく低所得者の不公平感をなくそうと、国もいろいろ考えているのです。
さらに政府・与党は現在、消費税率が10%に上がった後の低所得者の負担を減らすため、食品など一部の商品については税率を8%に据え置く「軽減税率」の導入を検討しています。まだ具体的にどうなるのかはっきりしませんが、何からのカタチで負担軽減が実現することは間違いなさそうです。

消費税の還付制度案とは? なぜ見直しが検討されているの?

消費税改正で何がどう変わる? ~個人編~  消費税が10%になっても、  食品など一部の税率は据え置きに?

消費税率を10%に引き上げるに当たっての負担軽減策としては、財務省が9月初めに消費税還付制度案というものを示しましたが、与党の反対によって白紙撤回されてしまったようですね。いったい、どのような案だったのでしょうか?

わかりやすく言うと、消費者がモノやサービスを購入するときに、いったん10%の消費税を納めてもらって、あとからそのうちの2%分を国が払い戻すという案です。
すべてのモノやサービスではなく、酒を除く飲食品(外食を含む)の消費だけを還付の対象としています。還付を受けることによって、結果的に飲食品と外食については従来どおり8%の消費税が適用されるのと同じことになります。
具体的には、スーパーやコンビニエンスストアなどで買い物をするときに、マイナンバー(税と社会保障の共通番号)制度で交付される個人番号カードを店頭の端末にかざし、購入額に応じて2%分相当のポイントを獲得します。その後、インターネットなどを通じて税務署に申告すれば、獲得したポイント数に応じて還付金が支払われる仕組みです。

言ってみれば、小売業やサービス業が提供している「ポイントカード」と同じような仕組みですね。手続きはそれほど面倒そうではありませんし、飲食品だけでも消費税が実質8%に据え置かれるのならありがたいと思うのですが、なぜ白紙撤回されたのでしょう?

論点はいくつかありましたが、まず、還付される金額に上限を設けてしまったところが問題視されたようですね。新聞報道などによると、財務省は1人当たりの還付金を年4000円までに制限することを検討しているようです。これが2%分だとすると、1人当たり年間20万円の消費までしか還付金が戻ってこないことになります。1ヵ月にすると1万6666円、1日だと547円です。さすがに1日の食費が550円以下という人は限られているはずですから、還付金の上限以上に消費して8%以上の税金を払うことになるでしょうね。
もともと与党、とくに公明党は、財務省が示したような還付制度案ではなく、消費税率が10%に引き上げられても、飲食料品など特定の項目については税率を8%に据え置く軽減税率の導入を求めていました。この制度なら、買うときに2%分の余分な税金を納めなくて済みますし、上限もありませんから、飲食料品をいくら買っても税率は8%のままです。

つまり与党は、もっと消費者のお財布にやさしい案に見直しなさいと財務省に言っているわけですね。もうひとつ、財務省案については個人番号カードを使用することも議論の的になったと聞きましたが。

レジの端末にかざした個人番号カードのマイナンバーが漏えいしたり、悪用されたりするのではないかという不安が大きかったようですね。しかも、それを嫌って個人番号カードの提示を拒否すると、還付は受けられません。結果的に不公平が生まれるのではないかということも問題になったようです。
個人的には、財務省が出した還付制度案は、それほど悪くない案だったと思っています。与党が押している軽減税率制度のように、最初から飲食料品は8%、それ以外は10%などと品目ごとに税率を分けると、事業者側の会計や税務処理が複雑になってしまうからです。
その点、財務省案は、最初からすべての品目に一律10%の消費税を課すという仕組みが非常にわかりやすいですし、ポイントに応じて還付するという仕組みもよく出来ていたと思います。

結局のところ、負担軽減策はどうなるのでしょうか?

何らかのカタチで軽減税率が導入されるとは思いますが、2017(平成29)年4月に予定されている消費税率10%への引き上げと同時に導入するのは時間的に難しそうです。その場合、暫定的な措置として、国が1人当たり一律1万円前後を支給するといった対応が取られる可能性もあります。

ところで昨年、消費税率が5%から8%に上がったときには、増税前の“駆け込み需要”と、それによる増税後の消費の反動減が起こるのではないかと騒がれましたが、ふたを空けてみると、さほど大きな混乱はなかったようですね。

総務省の家計調査によると、税率が8%に引き上げられた昨年4月の1世帯当たりの消費支出は前月比12.5%減、5月は同10.2%減となりましたが、6月以降は少しずつ支出が増えていきました。反動減の影響は限定的だったと言えるかもしれませんね。これまでにも消費税率の引き上げを経験しているので、さほど動じなくなっているのでしょう。おそらく再来年に8%から10%に引き上げられるときにも、大きな混乱はないと思います。
また、消費税率が引き上げられると、それに合わせて税込み金額の端数を切り上げ、商品やサービスの値段を上げる“便乗値上げ”が広がるのではないかとよく言われますが、むしろ価格戦略の一環として端数を切り下げる業者も少なくありません。
うがった見方をすると、業者ごとにどんな価格戦略を取っているのかということを知るうえで、消費税率の引き上げ時期は絶好のタイミングと言えるかもしれませんね。
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