それは「私的な出費」ではありませんか?
「経費で落とせる・落とせない」その分岐点

それは「私的な出費」ではありませんか?  「経費で落とせる・落とせない」その分岐点

2016/1/4

 
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社長「今度背広を新調したんだ。領収書渡すから、会社の経費で落としておいてよ」経理担当者「社長、それはできません」――。こんなやり取り、けっこうありませんか。では「経費」って何? どこまで認められる? これが意外にやっかいなのです。今回はこの経費の考え方を税理士の久野豊美先生に聞きました。


法人税の申告時期が近づいてきました。中小企業の経営者などが申告の時に迷うものの一つが「この出費は経費と認められるか否か」ですね。先生が顧問先の企業を見る時に気をつけるのは、どんな点でしょう?

「経費」とは「経営費用」、すなわち会社の経営のために使われたお金のことです。経費であれば、正確にいえば法人税法上の「損金」と認められれば、そのぶんを利益から差し引くことができますから、会社にとっては節税になります。
ですから、みなさんできるだけ「経費で落とそう」とするのですが、もちろん、何でもかんでもそうできるわけではないんですよ。税務署の税務調査で、本来は経費にできない領収書が見つかれば、節税したつもりが、逆に重加算税を課せられるようなこともありうるわけですから、注意しなくてはいけません。
私が巡回監査などで経費を扱う場合には、当たり前のことですけど、まず「これは、本当に事業活動に関連して支出されたものなのか」「個人のために買ったものが“付け込まれて”いないか」というところに目を向けます。

高額の飲食費の領収書とか。

そうですね。例えば得意先との飲食であれば、「会議費」ないし「交際費」として認められます。前者は支払った金額のすべてを損金に計上でき、後者はその金額に上限があるのですが、それについては回を改めて説明しましょう。
いずれにせよ、経費で落とすためには、そのお金が会議とか接待とかに支出されたものだということを証明する必要があるのです。ですから、顧問先に対しては、領収書の裏に「誰と飲食したのか」、最低限「何人で飲んだのか」を書いておいてほしい、とお願いしているのです。
でも、何も書いてない領収書が出てきて判断に迷うようなことも、正直あるんですよ。それが接待に使ったのか、個人的に豪遊したものなのかなどということは、はっきりいって分かりませんからね。

そんな場合はどうしているのですか?

社長や経理担当者に内容を確認してから判断しています。事実確認が難しいといえば、社長が買って会社に置いているゴルフクラブ、なんていうのは経費として認められると思いますか?

普通に考えると、「それは個人の趣味でしょう」と取られそうですね。

そういうふうに、あくまでも自分だけで使う人もいれば、「いや、これはお客さんが来た時、貸してあげるためにここに置いているんだ」と言う方もいらっしゃるんですよ。私にそう話された社長の会社には、時々海外から取引先の人が来て、実際に接待ゴルフをやっていたんですね。個人の趣味は経費への“付け込み”ですが、こういう場合には接待交際費として認められるでしょう。但し、取引先接待用に使っていることが証明できるような、何らかの資料を残しておく必要はあります。
ゴルフ店の領収書1枚からは、そのどちらかを推し量ることはできません。なので、「これは?」と思うものについては、「何のために使ったのですか?」「どういう支出なのですか?」ということをていねいにお聞きするのです。そこをスルーした結果、税務調査で「個人的に使うゴルフクラブを、会社の経費にしましたね」などと指摘されるのは最悪ですから。

税務調査で「経費」を否認されるとどうなるか


飲食代やゴルフクラブなどの領収書が経費と認められるかどうかは、ケースバイケースで事実確定の問題であるというお話でした。ではほぼ間違いなくクロ、すなわち経費とは認められないけれどもそれと誤解しやすい出費には、どのようなものがあるのでしょうか?

例えばスーツ。「社長の身なりは大切だから、経費で落とせるのではないか」と思われるかもしれませんが、それは認められないんですよ。芸能人だとかであれば別なのですが。同じ理由で靴とか腕時計、眼鏡などを購入したお金も経費にすることはできません。
これは当法人のお客さまではないのですが、ならばと「スーツ」ではなく「作業服」と書いて、税務調査で嘘がバレた例を知っています。作業着を売っているような店の領収書ではなかったのでしょうね(笑)。この場合、申告を仮装しようとしたわけですから、追徴課税のペナルティが課せられることになります。

今の例のように、もしも税務調査で、「これは経費とは認められません」と申告を否認された場合は、どうなるのですか?

経費ではないのですから当然課税の対象になり、多くの場合は「役員賞与」とみなされます。するとどうなるかというと、会社は経費を否認されましたから、35%の法人税を払う。かつ賞与は給与に含まれるので、そのぶんに所得税がかかってきます。経営者ならそれなりの役員報酬をもらっているでしょうから、その税金が55%で、合計90%。
それだけではありません。さきほどの例のように、税務署に対して「嘘」をついていたような場合、さらに重加算税が35%取られることになります。結局、おかしな領収書を経費に紛れ込ませようとしたがために、その領収書の金額以上の出費になってしまう可能性もあるわけですね。

節税の目論見があだになってしまうということですね。

ですから、私的な出費を経費にしようとするのはやめましょう、と常に言うのです。損をするのは自分ですから
 さらに、経費が否認されるケースには、「使途不明金」「使途秘匿金」というのがあります。これらは、文句なく否認されてしまいます。

両者の違いは何でしょう?

使途不明金は「支出先は分かっていても、何に使ったのかが分からないお金」です。実際には企業同士の「ウラ金」の処理などとして計上されることが多いようです。さらに使途秘匿金は「支出先も支出の理由も分からないお金」を言います。普通の会社を経営していれば、「いや、このお金はどこに行ったのか、皆目見当がつきません」などと言うことは、まずありえませんよね。だから「秘匿した」と判断されるわけです。

そのように認定されると、会社にとって結構なダメージになるような気がします。

当然そうなります。使途不明金はもちろん全額が課税対象になります。実際には会社が支出しているのに、それが非課税扱いにならないのですから、明らかな損害を被ることになりますよね。使途秘匿金の場合は、同じく全額に課税されたうえに、40%の追徴課税がかけられます。この税務処理の差は、「不明金」よりも「秘匿金」のほうが違法性が高い、平たく言えば脱税により近い、というところからくるんですよ。
まあ、そこまでやる会社は例外だと思いますけれど、お話ししてきたように経費には判断が難しいところがあります。「なんとかそれで落とせないか」という発想になりがちなんですね。もちろん、経費処理できるものはどんどんやればいいのですが、一方で「税務署にいたくない腹を探られる」ようなことを避けるのも、経営者の大事な役割ではないでしょうか。まずは「ちゃんと納税する」という姿勢を大切にしてほしいと思います。
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