どう使う? 新しい「事業承継税制」
どう使う? 新しい「事業承継税制」

2018/10/1

 
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事業を誰に受け継いでもらったらいいのか、悩む社長さんは、少なくありません。苦労して“2代目”に引き継いだのはいいけれど、とたんに業績が悪化してしまうこともあります。事業承継は、経営者にとって頭の痛い問題。しかし、この分野に特化する税理士法人トゥモローズの大塚英司先生は、「それは、会社を強くするためのチャンスでもある」と言います。今回は、そんな先生に、新しくスタートした「事業承継税制」も含めて、お話しいただきましょう。

誰が会社を継ぐのかには、3つのパターンがある

「親族」に継がせたかったが……


中小企業の事業承継が、社会的にも注目される状況になっています。


その成否が、日本経済に与える影響は、小さくないですからね。当事務所への相談でこのところ多いのが、今年改正された「事業承継税制」に絡んだものなんですよ。

なるほど、そうですか。それについてはのちほど解説していただきたいと思います。
 事業承継に関して、最近特徴的な事例などはありますか?


そうですね。これはまだ「継続中」の事例なのですが、後継者選びがなかなか思うようにいかず、悩んでいる60歳代の社長さんがいます。息子はおらず、娘婿を取締役に就けているというパターン。できれば、彼に継がせたかったのですが。

すんなりいかなかったのですね。何が理由だったのでしょう?


ひとことで言えば、「責任が重すぎる」と躊躇してしまったんですよ。社長が1代で築き上げた流通業の会社で、従業員は100人を超え、業績もまあまあだったのですが、それが逆にプレッシャーになってしまった。社長になれば、個人保証で借金を背負うことにもなりますし、1年以上悩んだ末に、「自分には荷が重い」と。

実の子ではなく、娘婿という関係も微妙なところではありますね。では、その選択肢が消えて、社長はどうなさったのでしょう?

親族承継は、減少傾向にある


次にターゲットにしたのは、娘婿以外の従業員です。経営権を渡すためには、社長の持つ自社株を、後継者に移さなくてはなりません。売却するにしても贈与するにしても、株価が高いとスムーズに渡すことが難しいですから、一方でその対策を考えながら、当事者と話し合いをしている段階なんですよ。
 整理しておくと、事業承継には「誰に渡すのか」によって3つのパターンがあります。まず、子どもやそれ以外の親族に渡すケース。親族承継は、会社の内外から理解を得やすいというメリットがありますし、最もポピュラーに思われるのですけど、年々その割合は減少しています。

少子化の影響もあるし、子どもの意識も多様化しているということでしょうか。


そうですね。で、2つ目が親族外承継で、今の事例のように会社の役員や従業員、または社外の人間に渡すパターンです。会社のことを知る人間だったら、「社長業」の受け渡しも比較的スムーズに進むはず。親族以外でも、後継者を見つけることができれば、「後釜がいない」ことを理由に事業をたたまなければならない、という事態を避けることができるでしょう。

さきほどの会社のように、100人も従業員がいたら、おいそれと潰すわけにはいきませんよね。


そして第3に、M&A、外部への売却です。まったくの第3者に事業を売るわけですが、仲介業者を上手に使えば、より広い範囲から、会社に適した経営者を探し出すことができるかもしれません。うまくいけば、やはり従業員の雇用は守られます。売却代金を得ることができれば、オーナーのハッピーリタイアが可能になるというメリットもあるんですよ。
 ただし、当然のことながら、買い手がつかなければ話はまとまりません。基本的に事業が好調でないと、難しい選択肢ではあると言えますね。

事業承継税制、使う? 使わない?

法改正で使い勝手がよくなった


では、最初にお話しの、事業承継税制の改正について説明してください。


もともとこの税制ができたのは、2009年なんですね。ところが、適用要件のハードルが高く、実際に利用する会社はごく僅かで、活用を進める税理士もあまりいなかったのです。そこで、15年に一部の要件が緩和されたのに続き、今回、抜本的な改正が行われました。

どこが変わったのでしょう?


下記(表)にまとめましたので、参照してください。

改正前 改正後
後継者人数の拡大 代表者となる後継者1人だけ 最大3名までOK
猶予対象の株式の制限 発行済み株式の3分の2 その取得した全ての株式
猶予割合 株式に係る相続税の80%(贈与は100%) 株式に係る相続税額の100%(贈与も100%)
株式の取得先 先代代表者からのみOK 先代代表者以外からの承継もOK
雇用確保要件 5年間は贈与・相続時の雇用8割を確保 雇用8割を下ったとしても、満たせない理由を記載した一定の書類を都道府県に提出すれば猶予打ち切りは確定しない。
株式を譲渡、会社が合併・解散をする場合の納税額 当初納税猶予額 一定の要件を満たす場合には、当初納税者猶予額を上限として、一定の再計算した金額が当初猶予額を下回るときは差額は免除

 制度をひとことで言えば、経営者が保有する自社の株式を、後継者に贈与、もしくは相続で渡す場合、従来は課せられていた贈与税、相続税の支払いをいったん猶予し、一定期間保有したら免除する、というものです。後継者が取得したすべての株式の課税が、100%免除されるんですよ。


少なくとも、税金のことは気にせず、後継者に株を渡せるようになったわけですね。事業承継の大きなネックの1つが解消されました。


「贈与・相続時から5年間、雇用の8割を確保する」という要件も、実質的に撤廃されましたから、使い勝手は抜群によくなりました。
 「2018年1月1日から2027年12月31日までの間に行われた贈与・相続により取得する株式に適用」、さらに、適用を受けるためには、「18年4月1日から23年3月31日までの間に特例承認計画を都道府県に提出」――という条件がありますが、これからの事業承継の主役になっていくように思います。

新税制、「使うのがベスト」ではない


とはいえ、会社の実情はそれぞれ違います。「どんな場合でも事業承継税制を使うのがベスト」「活用しなくては損」ということではありませんから、その点も注意が必要でしょう。

あえて「使えるけれど、使わない」選択肢もあるということでしょうか?


そうですね。株価を引き下げる手を打ったうえで、譲渡とか贈与とかで自社株を後継者に移し、それで課税関係を決着させるという方法もあります。

若干のコストはかかったとしても、従来の「王道」でいくということですね。そのメリットは?


使い勝手が良くなったとはいえ、新税制の適用を受けるためには、様々な手続きが必要です。「雇用の要件が実質的に撤廃された」と言いましたけど、「雇用8割」を満たさなかった場合には、「その理由を記載した書類を提出すれば、課税の猶予打ち切りは確定しない」ということなんですね。まあ、いろんなしがらみに縛られることにはなるわけです。

確かにそうですね。思い通りの経営をするためには、できるだけ外からの縛りは少ないほうがいいかもしれません。


ですから、何も考えずに「いい制度ができた」と飛びつくのではなく、別に可能なやり方がないのか、検討はしてみるべきだと思うのです。
 事業承継は、新しい時代に合った経営の体制を構築するチャンスでもあるのです。新税制によって、承継の選択肢が大きく広がったと考えて、早めに準備を始めることが大事だと思います。

経験のあるプロを活用してみるのもいいですね。


あえて付言すると、初めに紹介した事例で検討しているように、親族以外の人が後継者になる場合にも、この税制を使うことが制度上は可能です。でも、実際に使われることは、ほとんどないでしょう。

それはなぜですか?


問題は、相続にあります。自社株を贈与したオーナーが亡くなって相続になると、渡した株の評価額が、その相続財産に持ち戻しになるんですね。遺産額としてカウントされ、そこに相続税がかかってくるわけです。
 親族の誰かが持っているのならまだしも、自分たちの手から離れた会社の株にかかる税金を払わされるというのは、いかにも不合理ですよね。ですから、このケースでは「使われない」と考えられるのです。